同細胞生物

今、夢中な人を一言で表せぇ?
んな事できるかっつーの。
あのさぁ、一言で表せる程よーなヤツのどこに夢中になるんだよ。
一言なんかじゃ語れない程奥が深いヤツだからこそ、夢中になるんじゃないの?
もっともっと知りたいってくらいにさ、貪欲になるから夢中って言うんじゃないのか。
でも…そうだな。もし、どうしても一言で表さなきゃならないとしたら。

同細胞生物。

ってトコだろ。
私とあいつは同じって事。
いや、別に自分スキーなわけじゃないから。


陛下が許可したわけでもないのに陛下公認がうたい文句の週刊誌の今回の特集は、
『城内で働く女性の本音大公開スペシャル!!!』だった。
そんな特集の真髄と言うべき内容は『働く女性が気になるお相手』と語尾にハートマークが付きそうなものだった。
この質問に答えるのは男性読者の投票の上位十名である。
その中で、私、は強豪押さえ、堂々三位の座に着いたのだ。
まったく嬉しくも無い。三位なんだから何かくれと訴えたい気分だ。
ちなみに一位は第26眞魔国魔王フォンシュピッツヴェーグ卿ツェッツィーリエ様ことツェリ様。
二位はフォンカーベルニコフ卿アニシナ様こと毒女。または赤い悪魔。
しかし、思ったのだがツェリ様にしてもアニシナ様にしても名前が長い!
正式名を言っている間に何回舌が噛めるか競技にしてもイイくらいだ。
「なーに一人でブツブツ言っちゃってるのさ。怪しいわよー。」
スラリと言うには少し見苦しいかも知れないが、筋肉で引き締まった足がチラリと視界に入る。
「いや、あんたの方が怪しいから。むしろ妖しい?」
髪を大きな赤いリボンで纏め、純白ヒラヒラのエプロンに手首周りに白のフリルをあしらったピンク色の長袖、
それと同じ色のスレスレの超ミニスカートの下にガーターをポイントとして持ってきたかなり奇抜な美女に答える。
「人はそれを魅惑のグリエと呼ぶのよん。」
サービス旺盛にウインクとセクシーポーズで決めてくれた。
ただ、残念なのはこの美女は紛い物であるということ。
美女ではなく男なのだ。美しいかと言うことは置いておいて。
「今日も凄い格好だね、ヨザック。」
慣れた事なのであえて突っ込まないが、いや、突っ込みたいのだが。
ここはぐぐっと堪えて話しを進めようじゃないか。
「仕事帰りよー。朝帰りなの。グリエ、モテちゃって。」
うっふんと更にセクシーポーズを決めてくる。
後方で誰かが倒れる音がした。城の誰かが毒牙にかかったみたいだ。
「大変だねー。すごいねー。じゃぁ、そのサービス精神を私の変わりに記者にぶつけて来い!」
「あぁ、それそれ!もーったらっ!!このグリエを差し置いて三位なんて!」
キィーグリエくやしー!!との古典的なハンカチを噛むという仕草をする。
オイオイ、今時それはないだろう。
このセクシー炸裂、サービス精神旺盛な人は諜報活動をさせたら右に出る者はいないと言う、以外にエリートなのだ。
だた、母親が人間なのでエリートと言っても自分の領地を持っているというわけではないのだが。
女装が趣味と言う一風変わった人、グリエ・ヨザックは良き友、良き理解者である。
しかしこれまた、女装が似合うんだ。女の私より綺麗なのはかなり癪だが。
「右に出る者がいないけど、左に出る者ならいるの?」
「何言ってるの。左から出るのはグリエの宝物よ。」
はいと左胸から取り出されたのはペンダント。
とても綺麗な石のペンダントだった。出てきた場所を除けばだが。
「失礼ね!出したのは内ポケットからよ!心臓に近い神聖な場所にあったのよ!」
どうやら私は思いっきり嫌そうな顔をしたらしい。
「悪かったって。で、これが何?」
渡されたペンダントを光に翳しながら尋ねる。
光に弄ばれて輝く石は眩い光を放つ。
「プレゼント。」
「プレゼント?」
突拍子も無い答えに間抜けにもオウム返ししてしまった。
手持ち無沙汰に光で弄んでいたいたペンダントを奪われる。
文句の一つでも言おうと顔を上げると、さっきと打って変わって雄の雰囲気を纏ったヨザックがいた。
呆然と見つめた光に照らされて輝く彼の髪と目の美しさに思考を奪われる。
その間手際よくヨザックはペンダントを付けた。
「これからインタビューなんだろ?どうせ、その格好で行く気なんだろ?
せっかく三位になったんだ。コレ付けていけよ。このグリエ様が特別にプレゼントしてやる。」
ポンと方を叩き、わざわざ私に視線を合わせるために中腰になる。
「悪ぅございましたね、見苦しくって。せいぜい、コレ付けて常人ぐらいにはなりますよ。」
ふんっと顔を背けて悪態を吐く。こんな格好で悪かったですね!
アンタと違ってそんな豪華な服なんか持ってませんよ。どうせ普段着ですよ。
劣等感に苛まれる。
ヨザックはそんな事思っているはずはないのに、どうしても感じてしまう。
今まで一度だって対等だった事などない。
初めて逢ったとき、彼は凄く痩せていた。たぶん、まともな食事なんてしてなかったんだと思う。
砂漠を通ってきたのか砂埃も酷かった。
母は城付きの医者だったので、何度か彼らが暮らす場所に通った。
その中でも年が近かった私たちは打ち解けるのが早かった。
青白かった頬には赤みが戻り、細かった腕には肉が付いた。
その時にはあまり差と言うのは感じられなかった。
ただ、彼の体調が完全回復すると私と遊ぶ機会は減り、コンラートなどと剣の稽古をするようになった。
それからだった。
小柄だと思っていたヨザックはどんどんと成長していった。
その成長は目まぐるしいものだった。
背は伸び、筋肉は付き、声も変わった。
そして、ルッテンベルク師団と呼ばれ、国境の拠点・アルノルドへと、ろくな装備も整わないまま出征した。
その功績を称えられて、グウェンダル閣下の下に付いた。
いつだって、自分は無力だった。
そして、可愛くも無かった。
出征する前の晩もろくな言葉をかけてあげられなかった。
だからといって、行かないでと泣くこともプライドが許さなかった。
付いて行くと言える程、実力も無かった。
あの時ほど自分の無力さを呪った事は無い。
だから必死で追いつくためだけに勉強した。出来ることは全てした。
その実力を買ってもらい、今はアニシナ様の下で働いている。
それでも彼には追いつけないのだ。
対等にはなれはしないのだ。
「拗ねるなよ。コレさ、仕事先で行った場所でみつけたんだよ。
で、コレを見た瞬間、が思い浮かんだんだ。それでお土産に買って帰ってきた。」
綺麗だろう?と光に透かしながら子供みたいに笑った。
「帰ってきてみたら、はあの週刊誌のアンケートで三位を取ってただろう?
だから、ついでにそれのお祝いもと思ったわけなんだけど。」
神妙な声色なので何事かと思って見てみたら、珍しくヨザックが頬をほんのり赤くしていた。
どうやら私は自分を蔑んで見すぎていたらしい。
彼はずっとココで待ってたではないか。
「最高のプレゼントだよ。ありがとな。」
ちょっと背伸びをして彼の頬に口付けを落とす。
紅は付けていないから痕は残らないはずだ。
じゃぁと手を振って取材者と待ち合わせの方向とは真逆に駆けて行く。
せっかくプレゼントをもらったんだ。
それ相当の格好をしようじゃないか。
母からもらった正装用の服と紅を付けて行こう。
彼の髪色にそっくりなこのペンダントに似合う格好をしよう。
彼が待ちくたびれないうちに、横に並ばなくては。

後日、発行された週刊誌には今まで見たことも無いような美女が表紙を飾っていたという。
その美女との対談内に『夢中の相手を一言で表すと?』という質問があった。
その問いに対して彼女はいとも簡単にその質問の根本から崩してきた。
「一言で表せるようなヤツには夢中にならない。」
たじろぐ取材者を尻目に美女は世の男性が目眩を起こすような絶倫の微笑を浮かべていたそうだ。
「でも、どうしても一言で表さなきゃいけないのだとしたら、『同細胞生物』ってトコかな。」
と胸元に輝く太陽を閉じ込めたようなペンダントを光に翳しながら答えたらしい。
また、時同じくして城内の廊下にてオレンジ髪の超ミニスカを穿いた美女が頬をこれ以上ないくらい赤くし、
へたり込んでいる姿が目撃されていたらしい。
その美女は左頬を押さえていたそうだ。
後に美女はウェラー卿コンラートとフォンヴォルテール卿グウェンダルに発見され連行されていったという目撃談がある。
そして、それ以来、美女二人が人々の前に表れていないそうだ。





3000カウンターありがとうございます。
「NAN●」みたいな主人公という事だったのですが…どこを間違えたのやら;;
まったく別人になってしまいました;;
そしてヨザックの言葉遣いが解からない!!とい大きな壁に顔面直撃してしまい…。
なんだか偽者もイイトコロなヨザックになってしまいました。
この話しを書く上で、初めてあのマ王のアニメ資料を買っておいてよかったと思いました。
ツェリ様のフルネームとか覚えてなかったし;;
一応グリエちゃんが着ている超ミニスカーな服はマニメで着ていたやつです。
凛々しく丸太を担いでいたあの格好です。
こんな小説ですが、受け取ってください。

                    06.3/20

一年前ですね。書いてて楽しかったのをよく覚えてます。
ヨザック書くの好きですから。
この主人公も書きやすかったですしね。
これ、シリーズとして書くのもイイかもしれません(笑)

                     by aya kisaragi