うたた寝
「まったく・・・ギュンターに捕まるとは」
ぶつぶついいながら、コンラッドの部屋に向かう。
小さくノックして、返事を待たずに部屋に入る。
「ごめん、コンラッド遅くな・・」
そこまで言いかけて、手で口を覆う。
そして足音を殺して、そっとコンラッドの座る椅子に近づく。
「寝てる・・・」
くすくす笑いがこみ上げてくる。
うわー・・・
コンラッドが、こんなところで、寝てる。
どうしよう、こんな機会滅多にない。
おれは、この時ほど携帯を持っていないことを後悔した事はなかった。
でも、持っていないものはしょうがないので、自分の脳裏に焼き付けようと、じっくり観察することにした。
別に、コンラッドの寝顔を見るのは初めてではないけれど、こうして昼間に眠るコンラッドの寝顔は大変貴重だったから。
意外と長い睫毛とか、すっと通った鼻梁とか薄い唇とか。
ヴォルフラムとかと比べると地味だけど、やっぱり整ってるよなぁと思う。
右の眉にうっすら残る傷跡。
痛かったんだろうな・・・
思わず指を伸ばして触れそうになり、慌てて引っ込める。
この傷がついた経緯はくわしくは知らない。
なんとなく、聞いてはいけないような気がして。
ほんの僅かに開かれた唇。
眠っているせいか、少しだけ乾いているみたいに見える。
ちょっとだけ、ちょっとだけなら・・・いいかな。
こく、と唾を飲み込み、顔を傾ける。
おれは、どうしてもコンラッドの唇に触れたいという欲求に耐えることができなかった。
そっと触れ合わせて離れようとしたら
「んん・・・っ」
後頭部を押さえられて、動けなくなった。
ちゅ、音を立てて唇が離れる。
「コンラッド!!」
「ごちそうさまでした、ユーリ」
ちろ、と赤い舌が濡れた唇を舐めた。
「あ、あ、あんた!いつから起きて!?」
というか、狸寝入りなんかするな。
起きてるなら、起きてるって言え!
ずっと気づかなかった自分が悪いのに、そんなことはすっかり棚にあげて喚く。
「いつから・・・と言われると、ユーリが部屋に入ってきたあたりかな」
目を細めて笑う。
「趣味悪いぞ」
「寝てる者にキスするのは趣味悪くないんですか?」
「それは・・・っ」
コンラッドの腕が伸びてきて、おれを引き寄せた。
「まぁ、いいです。お陰でいい思いをさせていただけたので」
「どうせ、おれからキスなんて滅多にしないしね」
つーん、とそっぽを向く。
あぁ、本当らしくないことをしてしまった。
「もちろん、ユーリからのキスもですが・・・ユーリの百面相が見れたので」
くすくすコンラッドが楽しそうに笑い言葉を続けた。
「ひゃ、百面相!?」
そんなのした記憶はない。
「驚いた顔のあと、じーっと真剣な顔になったり、痛そうな顔したなと思ったら、照れくさそうな顔したり・・・」
ユーリの息がかかって、くすぐったくて・・・それでも、起きるのはもったいなくて。
でも、我慢した甲斐がありました。
キス、してもらえましたからね。
ものすごく間近で、コンラッドの瞳にある銀色の小さな星が見えた。
綺麗だなぁと思っていたら、
「ユーリ」
ふわっ、とくちづけが降ってきた。
おれは、目を閉じてコンラッドの首に両腕を絡ませた。
目を閉じると、コンラッドの寝顔が瞼の裏に浮かんできた。
あんな無防備な寝顔を一瞬でも見せてくれたのは、それがおれだったから。
そう思っていいよね――。
自惚れではなく、それは確信。
絡ませた腕に力を込めた。
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
30万記念フリー小説です。なんだか、前にも書いたようなシチュですが・・・。
これくらいしか思い浮かばなかったのです。

『闇色天蓋花』30万HIT記念小説でした。
踏めなかったのは残念でしたが、30万HITとは素晴らしいです。
こんなところからですがお祝い申し上げます。
サイト名を押すとまあさ様のサイトに飛ぶことができます。
by Aya Kisaragi