朝靄の中で

ふらりふらりと夢うつつ。
瞼を閉じて、ゆっくりと闇が俺の体を包んでいく。
瞼の中のもう一つの瞼を開ければ、次第に世界が明るくなった。
何度も体験しているので慣れてきたが、これは夢の中。
優しく布に包まれる感覚。
ぼやけた世界で次第にはっきりとしてくれば、少し遠くに黒い姿。
無重力の世界で泳ぐようにソレに近付いた。
「ユーリ。」
優しく微笑むソレは俺であって俺でない人。
口調が時代劇調だから、上様と呼んでいる。
「久しぶり…?」
前に会ったのが随分前の夢の中。
俺らが会うには夢の中以外ないから。俺の夢に神出鬼没に現れる上様。
なんだかちょっと照れくさいけど、双子の片方みたいな感じで親しみがある。
嬉しくって抱き付いてみればやさしく抱き締めてくれた。
「…ユーリ?」
変な感じだななんて思ってたら背後から聞きなれた声。
ビックリして顔だけで振り返れば、見慣れた顔。
「こっ…コンラッド!?」
俺の夢なのにコンラッド!?
ビックリしてあたふたしていると耳の直ぐ側で一オクターブ低い声が響いた。
「ここはユーリの夢じゃなくて、コンラッドの夢だからな…。
コンラッドが居てもおかしくなかろう。どうだ、ビックリしたかユーリ?」
えぇ、ビックリしましたとも。
そういえば、俺らを包む空気というか雰囲気がいつもと違う。
優しいというか穏やかというか。
なんて思ってたら上様の周りだけ温度が少し低かった。
「上様、ユーリを離して下さい。」
鋭い瞳で上様を見据えるコンラッド。
その言葉を受けて俺を抱き締める腕に力を込める上様。
当然俺は今まで以上に上様に密着するわけで。
そうすると、上様の周りの温度がさらに数度下がった。
もちろんコンラッドの表情も険しくなる。
「何故、ウェラー卿に指図されなければならんのだ?本体を愛でて何が悪い?」
「悪いですよ。ユーリはオレの恋人なんですから。いくら上様での許せませんよ。」
夢の中だからなのか、やけにコンラッドの物言いがストレートだ。
いつもだったらオレの前では何事もオブラートに包んだ言い方なのに。
ぼーっとそんなこと考えていたら、上様に体を反転させられて後ろから抱き締められる。
俺の前にはコンラッド。後ろには上様。
その二人は俺を挟んでにらみ合い中。
はっきりいってこの位置最悪ですけど!ねぇ、俺の事考えてよ!
口には出さずに心の中でつっこんでたら、徐に上様が俺の肌を触りだした。
「ちょっ…何するんだよっ!」
くすぐったさから身を捩れば逃がさないように抱き締められて、髪やら頬やら触られる。
それに比例するかのように目の前のコンラッドの機嫌がどんどん悪くなる。
更に比例して上様の周りの温度が下がる。
その寒さから逃げようとして身動げは抱き込められる。
そして最初に戻る。
完全に悪循環だ!
「これは余のモノだが何か問題があるのか?」
「えぇ、ありますとも。ユーリは身も心もオレのモノですから。」
オレという部分を強調して対抗するコンラッド。
はっきり言って俺には良い迷惑で。
そんな二人が俺を挟んで言い争ってるのを遠くに聞きながら、俺は夢の中でも寝てしまった。


朝日の眩しさに目を覚ませば、視界一杯にコンラッドが映り込む。
瞳は既に開かれていて、茶色の瞳が俺をじっと見つめていた。
めちゃくちゃ恥ずかしくてこちらも目を見開いて硬直してしまう。
そっと抱き締められて見つめられる。
「おはようユーリ。」
耳元で囁かれて顔が熱くなるのを感じた。
その一方で昨日の夢をコンラッドが知らないようで安心してしまった。
「ん、おはよう。」
その体温に惹かれるように擦り寄る。
触れ合った部分からじんわりと染み込んで来るコンラッドの体温。
心地の良さに思わず恍惚としてしまう。
そんな俺の耳に唇を寄せてくるコンラッド。
「夢の中では焦らしてくれましたね。貴方に焦がれて、上様には苛立たされて…。
狂うかと思いましたよ。今日はその分償ってもらいますよ。あと、上様に触られた分のお仕置きですね。」
言葉とは似つかない爽やかな笑顔でしれっと言い切られた。
声にならない悲鳴をあげた俺は心の中で上様と嫉妬深い自分の恋人に罵声を浴びせた。
それはまだ朝靄が残る早朝の話。





30000HITありがとうございました!
そして、私の我侭でリクをしてくださった圭様。
大感謝です。愛してます(笑)
まさか「30000」を越えるとは思いませんでした。
ひとえに皆様のおかげです。心から感謝いたします。
こんな拙いサイトですかこれからもよろしくお願いいたします。

                     by aya kisaragi