xxx of secret

雨の日の学校帰りに呼び出された俺はこっちに着いて唖然とさせられた。
「何コレ?」
城内含めて血盟城の周辺一帯がお祭騒ぎだったのだ。
取り合えず全身濡れネズミの俺はもったいないほど広い個室風呂に入り体を清める。
カラスの行水並みのスピードでこなすと、ちゃんとつかれとコンラッドにお叱りを受けてしまった。
名付け親で、恥ずかしながら俺の恋人である人に言われたら逆らうわけにもいかず。
てか、逆らう勇気なんて無い。
もし逆らったら……考えるだけで悪寒が走る。
そんなわけで恒例になっているコンラッドに髪の毛を乾かしてもらいながら俺は再度尋ねた。
「これは…決闘大会です。」
「決闘大会ぃ?!」
てっきりお祭だと思い込んでいた俺は流血沙汰になりかねないイベント名に度肝を抜かれた。
各言う俺も決闘をした人間、いや魔族の一人なのだが。
ただアレは不可抗力というか言葉に上手く乗せられたというか。
自ら望んだ結果ではない。その辺で言うとセーフにはいるのだろう。というか入って欲しい。
「多少の怪我はありますが命の危機に晒されるような事はありませんよ。
この大会も日々募っている国民のストレスなどを少しでも発散させようというものなんです。
それに人間関係のトラブル等もココで決着がついたりしますしね。人気のイベントの一つですよ。」
俺の髪を丁寧に扱いながら慣れた手つきで乾かしていく。
時たま項に触れるコンラッドの指がくすぐったくて身を捩ったりしながら。
「ってことは今その真っ最中?」
「明日からですよ。今日は気が早い者達が前夜祭をしています。」
後ろから抱き込んで頬にキスをされるのは髪が乾ききったという合図。
お礼を呟きながら頬を朱色に染めるとコンラッドは嬉しそうにキスをし離れていった。
そうして先程以上に手際よく片付けをしていく。
毎回俺はその光景をベッドに寝そべりながら眺めていた。
「へー。まだまだ知らない事が沢山あるんだな。これじゃぁ、俺は魔王失格だよ。」
うつ伏せから仰向けに体制を変えて盛大に溜息を吐く。
王となったのだからと教育係のギュンターと一緒に沢山学んだが、それでも足りない事は山ほどある。
何よりも疎いのはこういう行事もの。歴史を学んだって書いてなかったりする事が多く、知るときは大抵企画書等によってであった。
たまにコンラッドとの会話に出てきたりして、それに俺が食いついて教えてもらったりする時もあるが。
一番多いのは今回のように前日や当日、最悪な時には後日とか。
王が参加しない国事ってのはどかと思っては見るのだけれど不定期公務の俺には全てに参加する事は難しい。
その点、今回は前日なのでありがたい。俺も参加する事ができる。
「失格なんかじゃないですよ。知らない事はこれから少しずつ学んでいけば良いんです。」
片付け終わり戻って来たコンラッドは俺の隣に座って優しく俺をはげましてくれた。
流石俺より長く生きているだけあって、フォローもうまい。
「でも…。」
と言い終わらないうちに覆いかぶさられ、言葉ごと唇を奪われた。
幾度も角度を変えてキスをしていると息苦しさを感じてしっかりと筋肉が付いた胸板を押す。
そんな俺の行動にクスリと笑うと素直に開放してくれた。ただし、覆いかぶさったままで。
恥ずかしくて目を逸らすと、それを待っていたかのようにあちこちへと勝手気ままにキスの雨を降らした。
コンラッドが気になってチラリと見ると目が合う。
雨が中断し、もう一度俺の唇へと落とした。
そうして二人で話すわけでもなく見つめあったり、頬に触れたりとまったりと過ごしていた。
「ユーリ入るぞ…って何をしている!!!」
突然の訪問者、ヴォルフラムは他人の部屋なのにも関わらずノックもしないで入ってくる。
傍から見れば陛下を押し倒す護衛の図を目の当たりにしたヴォルフラムは癇癪を起こした。
成り行きとはいえ、一応自分の婚約者が実の兄に襲われているなんてまったく面白くないに決まっていた。
「何って…マッサージだが?」
いけしゃあしゃと嘘を吐き、それが誠であるかのように振舞ったコンラッド。
年の功とは凄いと変なところで実感してしまう。
「ボクのユーリに気安く触るな!」
「おい、誰がお前のだよ!」
熱くなったヴォルフラムはコンラッドを押しのけて俺と引き離させた。
ベッドから墜落させる目的だったみたいだが、流石に相手も軍人だったのでそれは失敗に終わった。
コンラッドは困った顔をしながらもとても楽しそうに目が笑っていた。
「ユーリもユーリだ!もっと抵抗しろ!
あぁ…このままじゃ埒が明かない!コンラート、明日の大会でボクと決闘しろ!
負けた方はユーリから手を引く。コンラートが勝った場合は婚約者であってもボクはユーリから手を引こう!」
キャンキャンと声変わりしきっていないボーイソプラノが喚きたてる。
普段ならばそんな事も気にせずさらりとあしらうのだが、今日はさっきの様子からして違うだろう。
「男に二言はないな?」
「もちろんだ!」
こうして俺の意思なんか無視して二人の間で決闘の取り決めが行われた。
取り合えず満足したのかヴォルフラムは部屋から立ち去る。
「これで胸を張って付き合ってると言えますね。」
そう嬉しそうに語る彼は弟相手に手加減する気が無いのを窺わせた。
こうなった彼を止める術を俺はまだ取得していない。ヴォルフラムには今度一緒に出かけるでもして謝罪しよう。



大会当日。決闘会場会場は凄い人で溢れかえっていた。
今回の目玉は「魔王争奪戦」。
陛下トトでも1位2位を争う二人が今回、正式に陛下を巡ってた決闘するとなれば陛下トトでこの二人に賭けている人から、
各ファン、そして物見たさの人までとかなり幅広く集まった。会場に入れず漏れた人も相当数存在している。
賞品と化した俺は普通王様が観戦する場所ではなく、賞品があるべき場所で見ていた。
本来俺が座るべき所には何故か村田が座っていた。
昨日はあれからコンラッドもコンディションを整えると行って部屋に帰ってしまったので、久々に一人で馬鹿デカイベッドを占領した。
誰にも邪魔されず睡眠を貪ったために今朝は目覚めが良い。
居眠りする事も出来ず、かと言って話し相手もいないのでさまざまな決闘をただただ観戦していた。
「次か…。」
アナウンスが最後の大目玉である決闘を読み上げる声が場内に響き渡る。
今まで煩いほどに盛り上がっていた会場は水を差したかのようにシンと静まった。
あちらこちらから固唾を呑む音が漏れる。
「お手柔らかに、ヴォルフラム。」
戦闘前の嗜みの握手を求めてコンラッドが手を伸ばした。
「手加減などしないからな。」
ヴォルフラムはその手を握らず叩き剣を構えた。
苦笑を漏らしながらもそれに続きコンラッドも構える。
そしてレフリーが開始の合図を告げると同時に嫌な金属音が響いた。
戦いの状況はどちらも互角。しかし、コンラッドの方がかなり優勢に見えた。
互角というよりはコンラッドがヴォルフラムに合わせているという感じだが。
ヴォルフラムもそれに気付いているようでかなり気が立っていた。
いつもならそんなことしないのに、コンラッドらしくも無い戦いだった。
「ふざけるな、コンラート!本気でかかって来い!それともボクじゃ役不足だというのか!?」
間合いを取りつつ喚きたてるヴォルフラムの姿は俺が魔王だと認めていない時の頃にそっくりだった。
嫌な予感が胸をよぎる。
「そんな事ないさ。ヴォルフラムは随分と腕が上がった。」
「ほざけ…!」
ヴォルフラムが間合いを詰めて飛び掛ったと同時に耳を劈く金属音が木霊する。
俺は呼吸をする事すら忘れて見入ってしまった。
一本の剣が冷たい音を立てて床へと落ちた。
「オレの勝ちだな、ヴォルフラム。」
終わりと言わんばかりにコンラッドは尻餅をついたヴォルフラムへ手を差し伸べる。
「こんな馬鹿げた勝負があるものか!」
開始の挨拶同様に手を叩き退けると剣の元へと駆け寄った。
肝心のレフリーは続行と告げる。
「炎に属するすべての粒子よ…創主を屠った魔族に従え…!我が意思をよみ、そして従えっ!!」
「ヴォルフラムっ!」
俺が異変に気付き声を荒げたときには既に火の球がコンラッドへと襲い掛かっていた。
事の状態にレフリーが慌てて試合中止を言い渡すが、ヴォルフラムはそれに構わず幾つもの火の玉を作り攻撃を続ける。
「うわっ…!」
見物客達も緊迫した状況に混乱を起こし始めていた。
時たま俺の近くを火の玉が通り過ぎて後ろの壁にぶつかっていた。
激しい破壊音と共に砂埃が舞う。
「ユーリ!」
標的になっているコンラッドはなんとか怒涛の攻撃を避けながら俺の元へと駆けて来る。
ギュンターやグウェンダルは警備として居た兵士に指示をしながら観客の誘導をしいた。
恐怖の色を帯びた叫び声が木霊する。
「ユーリ!怪我は?」
粉塵で視界が悪い中、俺を見つけたコンラッドは体のあちこちを点検する。
怪我がないと解かるとほっと息を漏らし抱き締めた。
尋常ではない状況に感情が高ぶっていた俺はその温もりに落ち着きを取り戻し、背中へと腕を回す。
ヌルリと生暖かい何かが俺の掌に触れた。勘違いかと思いそこを撫でるとその滑りは俺の掌に広がっていく。
俺はそっとその正体を確認した。それは紛う方なく鮮血だった。目の前の恋人であるコンラッドの。
ビックリして体を離し自分の手についたソレとコンラッドの顔を交互に見る。
「大丈夫…ですよ。ちょっと、破片が掠っただけですから…。」
困った顔をしながら笑うコンラッドの顔には血の気がなかった。
足元を見れば大量の血液が水溜りを作っている。
「今、止血するから!!」
何が何だか解からないまま取り合えず俺は掌に意識を集中して治療に当たった。
助けを求めようにも周りには人はおらず、頼りのギュンター達も誘導に追われていた。
今、救護できるのは俺しか居ない。
「何で…命の危機に晒されるような事はなかったんじゃないのか!?」
こんな事をコンラッドに言っても仕方がないのはわかりながらも理不尽な怒りをぶつけた。
「お祭じゃなかったのか!?なのにこんなのって…こんなのないだろう…。」
「ユーリ…。」
意識が朦朧としてきたのか虚ろな目で俺を見つめながら頬を撫でる。
心なしかその手にはいつもの温もりがなかった。
抱き締める手に力を込める。
やっとのことで止血をしたが俺たちの足元には大量の血の海が広がっていた。
周りでは未だに火の玉が壁にぶつかり激しい破壊音を立てながら粉塵を舞わせている。
「出て来い、コンラート!」
ボーイソプラノは神経質な声色を持ち恐怖の渦の中で凛と響く。
熱風が吹き荒れ粉塵が持ち去られてクリアになった視界には炎の狼が向かってきていた。
「うわっ…!」
ぶつかる寸前、俺は突き飛ばされて瓦礫の中に突っ込んだ。
グラつく視界をどうにか正常に戻し、起き上がる。
俺たちが先程までいた場所には瓦礫が音を立て粉塵が舞っていた。
「ごほっ…コンラッド!?コンラッド!?」
瓦礫の山を掻き分けながら彼の元へ向かう。しかし粉塵が邪魔をしてコンラッドの姿は見当たらない。
「コンラッド!!コンラッ……!!?」
粉塵にちらつく彼のシルエットへ名を呼びながら駆けてった俺は息を呑んだ。
コンラッドは瓦礫に埋もれながら血の海に体を沈めて横たわっていた。
駆け寄るのをやめて呆然と見つめる。
視覚を除いた他の器官が活動を停止した。
「これの…これのどこが祭なんだ?コンラッドを命の危険に晒すこれが…!
国民を恐怖に晒すこれが…!!これのどこが祭なんだよ…!ふざけるな!!」
俺の中で何かが音を立てて切れた。
雲ひとつ無かった空から雨が滴り落ちてくる。
いつしかその量は俺の悲しみを表すかのように大雨となった。
「ユーリ…?」
雨で粉塵が落ち、初めて俺の姿を認識したヴォルフラムが唖然とした顔で見つめる。
「己の敗北を受け入れず規則を無視した暴走行為…。
それを決闘と言うのであるならば、そのような輩は野放しにしておくわけにはいかぬ!
戦う事は本位ではないが…やむをえぬ…おぬしをを斬る!」
体の中から膨大な力が溢れ出るとそれが水龍として具現化した。
「なっ…!」
具現化したソレはたじろぐヴォルフラムに巻きつき自由を奪う。
「余の恋人の命を奪ったおぬしの身勝手さ、断じて許すわけにはいかぬ!」
「何を言って…!」
前回の恐怖を思い出したのかとにかく暴れるヴォルフラムを押さえつけるようにきつく巻きつく。
苦痛に歪むヴォルフラムの顔を見ながら感情なく話し続ける。
「そなたの暴走行為は初めてにあらず…!」
雨足は更に強まり血の海を流し去っていく。
誘導が終わったギュンター達が慌ててコンラッドの元へ駆け寄る。
「衛生兵を!!」
グウェンダルが適切な指示を飛ばしながらコンラッドの手当てにあたった。
コンラッドが身じろぐ。
「陛下!コンラートは生きています!!」
ギュンターの叫びに反応しグウェンに手当てをされているコンラッドを見る。
「ユーリ…。」
うっすらと目を開け、手を伸ばした彼。
その瞬間ふっとヴォルフラムを束縛していた水龍が姿を消し、自由にした。
「二度目はないぞ…以後よくよく改心いたせ。」
いい終わると体から力が抜けその場に倒れた。
大雨だった空は嘘のように雲ひとつ無い快晴と変わった。



「んっ…。」
朝日が眩しくて目を覚ます。
「目が覚めましたか?」
重い瞼をどうにか開けると目の前にはコンラッドがいた。
俺の額に張り付いた髪を掻き揚げる姿はどう見てもコンラッドだ。
ダルイ体を叱咤して起き上がろうとするとコンラッドが手助けをしてくれた。
ついでに腰に枕を入れて、楽な体勢にしてくれる。
俺は慌ててコンラッドの背中を撫でた。あの時鮮血が溢れていた場所を。
「治りましたよ。ユーリの手当てが効いたんです。」
俺の行動が何を指しているのか気付いたコンラッドは抱き締めて耳元で囁いた。
そこにノックの音共に人が入ってくる。
「陛下、お目覚めになりましたか!」
汁が溢れんばかりに駆け寄ってくるギュンターをグウェンダルが制止する。
そしてその後ろからヴォルフラムが入ってきた。
「すまなかったな、コンラート。それにユーリ。こっ…今回は特別に負けを認める。だが、次回はボクが絶対に勝つ!」
ふんっと鼻を鳴らすと部屋をマッハのスピードで出て行ってしまった。
きょとんとしている俺にギュンターが説明をする。
「陛下はあれから丸一日眠っておられたのです。ちなみにあの決闘の勝者はコンラートですよ。」
丸一日…。まぁ、最初の頃に比べては短いけれど、まだまだな。
グウェンダルが俺にアミグルミを渡す。……たぶん、犬の。
「それにしても流石ね、陛下。」
ドアからこちらを伺っていたツェリ様が惜しみもなくスタイルの良い体を見せ付けながら近寄ってきた。
丸一日寝込んでいた俺にはかなり毒な光景である。
「聞いたわよ。うちの息子を二人も手に入れたんですって?
ヴォルフラムと違ってコンラートはカッコイイものねぇ。という事は陛下はコンラートのお嫁さん?」
とてつもない言葉の核爆弾を落とすツェリ様の表情は恋話をする時の乙女だった。
唖然としていると側でカダンと大げさな音がした。
何事かと思ってみて見るとギュンターが硬直したまま倒れていた。
目を見開いているんでかなり恐い。
「次はグウェンダルかしら?この子は見た目はこうでもとてもピュアで優しいわよ。
そうなると陛下は嫁を一人と婿を二人で、娘が一人。グレタはやはりヴォルフラムとの子かしら?
それともコンラート?コンラートはこうみえて手が早いものね。意外にもグウェンダルかしら?グレタを良く見ているし…。」
うふふと艶やかな唇を笑顔に歪ませながら楽しげで傍迷惑な想像を広げながらツェリ様は去っていった。
グウェンダルはいつも以上に眉間に皺を寄せている。
当のコンラッドは…満面の笑顔を浮かべて俺を抱き込んでいた。
「なっ…何で皆にバレてるんだよ!?」
まったく状況が読めない俺はあたふたとコンラッドの腕の中でもがく。
「ユーリが宣言したからですよ。俺のことを恋人だって。もう国民中が知ってますよ。陛下トトも凄い変動をみせましたし。」
「何ぃ!?いつ・どこで・誰が・誰に・何をしたって!?」
信じられないと体勢を変えてコンラッドの肩を精一杯の力で揺さぶった。
あまり気にした様子もなく抱き締められる。
「昨日、大会が行われた競技場で、ユーリが、そこに居た全ての人に対して、オレが恋人だと宣言したんです。」
記憶が無いけど、なんて事をしてしまったんだ、俺は!!
ちゅっと音を立ててキスされても放心状態の俺の心が戻ってきたのは、それから数時間たってからだった。
そして、その出来事が作り話でもドッキリでもないという事を俺は身をもって嫌という程知る事になる。





くぎ様リクエストで「恋人のコンラッドのためにマジギレして魔力大放出!!」でした。
取り合えずかなり頑張ったのですが…どうでしょう?
今回の話は漫画一巻を参考に書きました。
頑張って一話にしようとしたためいつもより長くなってしまいました;;
個人的に眞魔国は年中お祭騒ぎなイメージがあります(笑)
くぎ様のみお持ち帰り可です。煮るやり焼くなりご自由にどうぞ。

                     by aya kisaragi