猫の躾は忘れずに |
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いつも通りの朝。 朝日の眩しさに目を覚ます。 まどろんだまま、ごろりと寝返りを打って自分の陣地が広い事に気付いて完全に目を覚ます。 慌てて起き上がりあたりを見回す。 その頃を見計らったのかのように探していた人、コンラッドが現れた。 俺は嬉しくって尻尾を振った。 そう、尻尾を。……尻尾? 「えぇ!?」 ただ、いつもと違ったのは俺にネコ耳と尻尾が生えていた事だ。 まだ完全に起きていない頭を必死に動かす。 「あぁ、思った通りだ。とても似合ってますよ、ユーリ。」 いつもと同じくちゅっと音を立てて俺にキスをするコンラッド。 そしてガチャリと首元で無機質な音が立つ。 「ユーリは肌が白いからエナメル製の首輪も良く似合う。黒で毛並みとお揃いですしね。」 取りあえず首輪を外そうと抵抗を試みるがびくともしない。 目の前に突きつけられるはカギ。 「オレに付き合ってくれたら外してあげますよ。だから無駄な抵抗はやめて大人しくしてください。」 よいしょっと持ち上げられて初めて俺は自分の状況を把握した。 コイツ、前の事根にもってやがる!! 手足を精一杯ばたつかせるが、どうやら背までも縮んでいる。 「嘘だろ?」 「嘘じゃありませんよ。オレにああいう事をするとどうなるか教えて差し上げますよ。 もちろん、嫌と言ってもやめませんがね。悪戯好きな子猫にはちゃんとした躾が必要ですし。」 にっこりと笑うコンラッドがこの間のような可愛い獅子には見えなかった。 百獣の王。または悪魔。 血の気がドンドンと引いてく俺とは正反対にコンラッドのテンションはドンドン上がっていった。 一日は始まったばかり。 「コレを着てください。」 そう言って渡されたのは漆黒のメイド服。ちゃんと尻尾を通す穴あり。 グリエデザイン・メイドイングウェン。 「絶対に嫌だ!!」 洋服を引っぺがされてしまった俺は不機嫌に尻尾を振りながら布団に丸まっていた。 「大丈夫。ペチコートもちゃんとありますから。ホラ、純白の。」 ホラという掛け声と共に捲られたスカートの下には確かに純白のペチコートがあった。 あったからどうした。俺的に問題はそこではない。 「そーゆー問題じゃないだろ!嫌なものは嫌だ!」 ふーっと威嚇をしてみるがまったく効果なし。 「じゃぁ、のびのびと裸で生活します?」 「誰が!」 むしろ彼の可虐心を刺激しただけだった。 大体、耳と尻尾が生えただけの俺が全裸で生活なんかしたらわいせつ物頒布罪で捕まっちゃうから! てか見せられるほど誇れるものは無いから! あえて何とは言わないでおこう…。 「そしたらこれを着るしかありませんね。」 渡されたメイド服を仕方なく受け取る。 まさか男の俺がこれをまた着る羽目になるとは思わなかった。 あの時は脱走するためという理由で来たのだが…今回はどう考えても目の前の恋人の我侭。 しかし、言う事を聞かないと躾と称されて何をされるか解からないので従う。 今だって危うく全裸生活をさせられるとこだったし。 「絶対こっち見るなよ!」 と、取りあえず釘をさしておく。あまり効き目があるとは思えないけど。 もぞもぞと布団から這い出し洋服一式が入った紙袋をあさる。 それにしても驚いた。 中には尻尾を通す穴が開いた、どう考えてもスースーするであろう下着とメイド服が入っている。 他にもヒールがある靴が入っている。 俺は大人しくソレを身に着けていく。衣擦れの音のみ部屋に響いた。 「着替え終わった…。」 俺の合図すると近寄ってくるコンラッド。 そして俺の姿を頭から爪先まで舐めるような視線で観察した後、嬉しそうに微笑んだ。 「とっても可愛いですよ。さぁ、こちらへ。紅茶が入りましたよ。」 女性をエスコートするように俺を連れて行くコンラッド。 当たり前だが履きなれていないヒールがある靴におっかなびっくり歩きながらどうにか付いて行く。 コンラッドが俺を気遣ってくれるおかげで転ばずに紅茶の元へと無事たどり着いた。 「で、この遊びにはいつまで付き合えばいいんだよ?」 恥ずかしい格好を見られるというある意味、羞恥プレイに俺はもう心底疲れていた。 そしてあんな悪戯をするんではなかったと後悔した。 「あれは悪かったと思ってるよ。けど、ちょっとしたお遊びじゃん? もって半日ぐらいの薬だって聞いてたからやったんだし。な、機嫌直せよ。」 アンタだってあの後、色々と楽しんだんだしとは言わずに飲み込む事にした。 せっかく淹れてくれた紅茶が冷めるのも悪いので律儀に飲む。 ずっと俺の様子を眺めていたコンラッドがやっと口を開いた。 「なら、これもちょっとしたお遊びですよ。そんなに薬の効果は続きませんし。 もって一日から二日だそうです。それまでユーリはオレのペットですから。文句は聞きませんよ。」 そうキッパリと告げた彼に俺は目を丸くした。 一応、一国の王で恋人をペット呼ばわりする従者で恋人など聞いたことも無い! けれど俺には目の前の今からご主人様である彼に異議申し立てをする程、度胸も勇気もなかった。 結局は自分が可愛いのである。 「さぁ、ユーリ。朝のトレーニング代わりに散歩でもしましょうか?」 残酷な宣言と共に俺の受難が始まった。 我侭で腹黒なご主人様の復讐とも取れるこのお遊びが。 早朝は人が少ないので助かった。 城内を歩いていても誰とも会うことがなかったのだ。 いつものランニングコースではなく本当に散歩道をコンラッドと手を繋いで歩く。 未だにスースーする足元が気になりはするが、散歩自体は悪くない。 それどころか、今まで気付きもしなかった花や虫を見つける事もできた。 こんな格好で無ければ楽しめただろう。 「あのさ、コンラッド。」 歩きをやめてコンラッドを静止させる。元々俺の歩調に合わせてくれていた彼はすぐ止まり振り替える。 俺が何も言わずもじもじとしていると急に抱き上げる。それもお姫様抱っこで。 「ちょっ…コンラッド!」 驚いてぎゅっとしがみつく。その様子に笑いを漏らすとスピードを上げて歩く。 着いた先はいつかコンラッドと来た丘。そこのベンチに俺を降ろすと徐に靴を脱がす。 「靴擦れしてしまったんですね。早く気付いてあげられなくてすみません。」 赤く擦れてしまった部分に唇を落とされる。いきなりの出来事に呆然と見つめていると、舌を這わされた。 体がビクリと揺れるとコンラッドが喉でクツクツと笑う振動が伝わってくる。 「ゃっ…やめろよっ!」 鼻を抜ける甘い声が出そうになるのを懸命に抑える。 ただ、体は素直で特に突然生えた尻尾と耳は小刻みに震えていた。 「消毒ですから。大丈夫、ここでは食べませんから。」 クスクス笑いながら気が済むまで舐め、勿体無い事にハンカチを破き擦れただけの部分に巻き付けた。 ただでさえ疲れていたのに、からかわれて体温まで上昇してしまう。 まだ昼にもなっていない。 あの、部屋にまたもやお姫様抱っこで連れて帰られて、一通り消毒された。 それ以降俺は靴を履いていない。ベッドの上かソファーや椅子の上のみで生活している。 部屋から出て他の人の目に晒されないのは良いのだが、なんだか軟禁されているみたいだ。 「暇だよ、コンラッド。」 「じゃぁ、出かけますか?大変だと思いますよ。」 さっきからこの会話を何度も繰り返している。 堂々巡りな会話に終着点はない。 「やーだー。早く薬切れないかなー…。」 すっと目の前に出されたのは猫ジャラシ。思わず俺は飛び掛る。 パタパタとリズム良く揺らされるソレにいつしか俺は夢中になってしまった。 「可愛いよ、ユーリ。」 スカートが捲れろうが、髪が乱れようがそんな事、もうどうでも良かった。 俺の中の本能が呼び起こされる。 ピタリと猫ジャラシの動きが止まった。 「コンラッド…?」 もっと揺らして欲しくて見上げると目が合う。そしてコンラッドは意地悪く笑った。 揺らしてる尻尾をやわやわと撫でられ背筋に電気が走る。 「んっ…コンラッド?」 「猫ジャラシもっと揺らして欲しいですか?」 さっきまで揺らしていた猫ジャラシを掲げて揺らす。 自然と俺はソレを目で追うって、じゃれる体勢を取るが、それ以上揺らされる事は無かった。 ただただ、コンラッドは尻尾を撫でる。先端から根元まで丹念に。 その度に俺の背中には電気が流れた。それを隠しながら必死に頷く。 「じゃぁ、キスして?」 猫ジャラシを見たままだった俺の顎を掴み無理やり向き合わされる。 「なっ…!」 我侭主人は次なる命令を俺にする。 俺の気持ちは理性と本能の間で揺れ動いた。 猫ジャラシは揺らして欲しい。けど、見つめられたままキスするのは恥ずかしい。 そして、俺の心は片方へと堕ちた。 「……コンラッド。」 本能の方へと。 見つめられたまま俺は主人へと口付けを施してお願いをする。 現在夕方。 その後、猫ジャラシが揺られる事はなかった。 ![]() 獅子の日のその後ネタでした。 獅子の日記念小説を読んで無くても楽しめるように頑張りました。 もちろん、読んでいた方が楽しめますよ。 今回、いつも以上にコンラッドを黒く、エロくをもっとうに書きました(笑) あまり要求されないので裏はまだつくりませんが。 by aya kisaragi |