おでかけしましょ? -デート編-

当日。
俺はセットしていた目覚ましが鳴るよりも早く目を覚ました。
寝坊するよりもましだが、はりきり過ぎだろ俺。
ぼんやりしている頭のまま、身支度を始めた。今日は暑いらしいから帽子も。
全身が映る母さんの鏡を見てチェックをする。実は昨日、この鏡の前でファッションショーしてたり。
「変じゃないよな…?」
鏡の俺に問いかける。当然答えは返ってこない。
帽子を鞄の上に置いてリビングへと向かった。まだ、誰も起きていない。
テレビをつけて、天気を確認する。快晴で、気温は三十度を超える暑さ。
お天気お姉さんが伝える予報を朝食のパンを咀嚼する。しかし、これからの事を考えると食が進まない。
だって、これからコンラッドとデート。
頬が赤くなるのが見えなくても良く分かる。今からこんな調子で今日一日持つのだろうか?
テレビを見ると出発時間になっていた。
「ヤバイっ!」
慌てて牛乳を飲み干し、部屋に戻る。荷物を取って、急いで階段を駆け下りる。
置きっぱなしだったコップをつけて家から出て行った。
じとっとした空気が体に纏わりつく。いつもなら気分はブルーになるが今日はそんな事気にならない。
気分が高まっているせいだろう。
コンラッドを待たせてはいけない。その一心で足を動かし駅に向かった。


待ち合わせの駅に20分も早く着いてしまった。
ここからまた電車に乗らなくてはならないので、先に確認しに行く。
「何だろ?」
駅員が声を上げて何かを宣伝している。興味をもって聞き耳を立ててみると、一日切符を売っているらしい。
しかも、何周年かの限定記念モノ。リストバンド型らしい。
「買おっかな。」
口の中で呟いて売り場へと向かった。購入数は二つ。
一つは自分の腕に。もう一つは鞄の中に入れていおいた。
外は暑いのでそこらへんの店をフラフラと見て歩く。そうして約束の時間になったのだが。
「来ない。」
あのコンラッドが時間になっても来ないのだ。
デートは5分前には確実に待ってますって感じのコンラッドがだ。
何かあったのかとドキドキする。
とだ、突然俺のポケットに入っていた携帯電話が振動する。
ちなみに前のスタツアで壊れてしまったのでオニュウだったりする。
「もしもし?」
「ユーリ?」
何故かコンラッドの声が聞こえた。携帯持ってないんじゃないのか?
「コンラッド?」
疑問に思いながらも相手の名前を呼ぶ。コンラッドの呼吸が荒い。
やはり何かあったのだろうか?
「すみません、ユーリ。寝坊をしてしまって…。今、急いで向かってるのでもう少しそこで待っててください。」
俺の返事を聞かず電話を切られた。
呆然と電話を見つめる俺。
コンラッドが寝坊?珍しい事があるものだ。
それから少ししてコンラッドはやって来た。額には汗が滲んでいる。
走ってきてくれたことに笑みが零れる。
予定より遅れてしまったが特に問題ないだろう。
入場までの時間だって、コンラッドがいれば退屈もしない。


入場して数時間。俺たちは遊園地を満喫していた。
アトラクションに乗って濡れたりとアクシデントはいくつかあったが楽しいので問題なし。
昼飯を取り終え移動を開始する。
次に目指すはメリーゴーランド。これもただのメリーゴーランドではなくアラビア風のだ。
ラクダや像やグリフォン、そして魔人。
グリフォンも惹かれるがやはりココは魔人だろう。
女性や子供連れの多い列に並びながら、たわいもない会話を楽しむ。
「ところでユーリはどれに乗るつもりですか?」
ふと思いついたように問いかけられた。
「俺?やっぱ魔人かな。ココでしか乗れないしねー。」
人懐っこい笑みを浮かべて答える。
そうですかと呟いた後何かを考えるコンラッド。不審に思って見上げる。
目が合うと笑いかけるだけで、そのあと特に会話が無かった。
そしてゲートが開き人々が思い思いの物に乗っていく。
やはり一番人気は魔人。
そこそこ前にいた俺は早足に魔人を目指す。
しかし、どれも人が乗っていて空いていない。
「あっ!」
懸命に探すと空いている魔人が一体だけいた。色はエメラルドグリーン。
色違いだが、文句も言っていられない。
小走りで駆け寄り乗る。少し遅れてお姉さんが駆け寄ってきた。ほんのちょっとの差。
ちなみにさっきまで俺たちの前に並んでいた人だ。
気まずくて思わず顔を背けてしまった。
そのまま明後日の方向をみていても可笑しいのでコンラッドの方を見る。
俺のすぐ後ろに座っている。
「オレなしでも乗れますよね?」
「あっ当たり前だろ!!」
突然の発言に驚いて声が裏返る。
もしかしてさっきから悩んでいたのはそれか?
メリーゴーランドぐらい乗れなくてどうするんだ。小学生だって乗れるんだ。
拗ねた顔をしてコンラッドを一睨みする。
苦笑いをしてデジカメで俺を撮る。
…デジカメ?なんでそんな物を持っているんだろう。
「でも、よかったですね。それに乗りたかったんでしょう?」
覚えていたらしい。まぁ、色が違うんだけどね。
係りのお姉さんが諸注意を放送して回りだした。
ここのメリーゴーランドは二階建て式で、俺たちは二階にいる。
眺めがイイ。アラビアチックの建物の隙間から太陽が見えた。
ちょうど夕方。夕日がうまい具合に建物の後ろにあてロマンティックだ。
うっとりと見つめていると、後方で光が瞬いた。
ビックリして振り向くとコンラッドがデジカメを構えていた。
「綺麗に取れましたよ。」
にっこり笑って撮った写真を確認するコンラッド。
この人はどうしてこんなに恥ずかしいことをするんだろう。恥ずかしくて顔を上げられないじゃないか。
その後、俺は魔人の後頭部を眺めていた。
時間が来たらしくだんだんと回転スピードが落ちていく。
係員の放送が入り、降りようと思ったのだが…。
「高い…。」
地面を見て思わず呟いた。
しかし、ずっとこの上にいるわけにいかないので、意を決して飛び降りる。
その瞬間に魔人の頭に肘をぶつけた。
無事、着地をするとコンラッドが寄って来る。
「大丈夫ですか?」
どうやら見ていたらしい。
ブツブツと文句を言うのが聞こえたが無視をする。
建物を出て次は何にしようかとパンフレットを開くとコンラッドが身を屈めて俺に何やら耳打ちしてきた。
「ユーリが乗るのはオレだけで十分でしょう?」
クスリと笑いながら頬を撫でられた。腰に来る兄にも負けず劣らずなハスキーボイス。
「今度、オレの上に乗せてあげますよ。」
ちゅっとわざと音を立てて耳にキスをする。
何を言ってるんだこの人!ココ、夢の国ですけど!?
わたわたと慌てるオレをほっておいてパンフレットを眺めている。
今日が暑くて、しかも今が夕方でよかった。
きっとオレの顔の赤さなんて気づかないだろう。目の前のこの男以外は。
それからのオレの行動がギクシャクしていたのは仕方が無いことである。


30分以上も待て乗ったアトラクションから出てみると外は暗くなっていた。
時間が経つのも早くもう夜。
もう少しで魔法が解ける。
そう思うととても悲しくなった。シンデレラはどうだったのだろう?
時間が気にならなかったのだろうか?
「ユーリ、ショーは見ますか?」
そんなことは露知らず。コンラッドはこれからの予定を立てている。
気づいてない方が良いのだが。
「見たいな。」
「なら、今から急いで場所に向かいましょう。
どうせなら座ってみたいですから。今から向かえば真正面は無理でも良い場所に座れますよ。」
ほぼコンラッドに引っ張られるように場所を発った。
やはり真正面は満席だが、ラッキーなことに隣のブースはまだ座れる。
レジャーシートを持ってこなかったのでビニール袋を敷いてその上に座る。
始まるまでまだ30分もある。
何か軽い物を買ってくるとコンラッドが行ったので、俺は暇を持て余していた。
前後左右ほぼ家族連れ。後の残りはカップル。
友人同士というのはまだ見受けられない。
ポケットの中に入れっぱなしだった携帯が振動した。
取り出してみてみると村田からのメール。
暇だった俺は村田にメールを打ち出した。昼間のうちに撮っておいた画像を添付する。
「何しているんですか?」
いつのまにか帰ってきていたコンラッドの声が上から降りかかってきた。
ビックリして跳ねてしまう。携帯も手から落ちてしまった。
俺が拾う前にコンラッドに取られてしまった。 奪い返そうとすると飲み物と食べ物を渡されてしまったので叶わない。
画面はメール作成途中のまま。
「ユーリ、これはどういうことです?」
画面に映っている一文を指差される。
『恋人なわけないじゃん!』という文。ヤバイ、言い訳が思いつかない。
「ユーリにとってオレはそんなものなんですね。」
怖いくらい爽やかな笑顔でオレを見つめてくる。
「違っ…恥ずかしくてだよ!」
慌てて訂正するがコンラッドの不機嫌は直らない。
そんな気まずい空気のままショーは始まってしまった。
始めにこの遊園地のメインキャラクターが出てくる。そして、適当にいろいろ言った後消えていった。
それからが凄い。炎が噴出したり水が天高く昇る。
しかし、オセイジにもあまり俺は背が高くないので見にくい。
隙間から顔を覗かせていると腕を引かれてコンラッドが胡坐をかいていた間にすっぽりとはまった。
「この方が見やすいでしょう?」
コンラッドの足の高さも加わってクリアになった視界。
目の前に輝く光と炎と水。
「炎が水に恋をした…か。」
ショーのコンセプトを思わず呟く。
まるで俺たちのようだと思った。
「オレとユーリみたいですね。もちろんユーリは水ですよ。一番最初にユーリが使った魔術も水ですし。」
俺の独り言に返すコンラッド。
触れたら最後。どちらとも消えてしまう。
ズキンと胸が痛んだ。
魔法が解けていくのが分かる。この状態もあと少し。
目に涙が滲む。ショーの煙のせいだけではない涙。
「でも、オレたちは互いに触れ合えますよ。」
囁かれた言葉に、目の前の美しい状況に俺の頬に一筋の涙が伝った。


ショーが終わり、俺は前へと急ぐ。コンラッドが慌てて追いかけてくるのが分かる。
コンラッドが横に来るとデジカメを引ったくり、近場のお姉さんに写真を頼んだ。
「ユーリ?」
わけが分からなく困っているコンラッドを無視してポーズを取る。
コンラッドも俺を真似てポーズを取った。ピタリとくっついて。
「ありがとうございました。」
取り終えてお姉さんからカメラを受け取る。フラッシュをたいたせいで背景が少しショボくなったが気にしない。
お土産を買って出口へと急いだ。背後で花火が打ちあがる。
これを最後まで見るのは時間的に無理なので振り替えつつ出口へと向かう。
「ユーリ。」
危ないと思って注意されたと思い前を向く。
その時だった。
コンラッドの唇が俺のソレに触れ、すぐに離れる。
けれど、触れたのだ。
驚いて見上げると悪戯めいた笑みを向けられる。
「大丈夫、誰も見てませんよ。みんな花火に夢中です。」
それでも慌てていた俺の手を取って出口への波とのった。
最初は普通に繋いでいたが、少しすると互いの指を絡めるなようになった。
俺は恥ずかしくて前を向いて歩けず、コンラッドの靴を見て歩いた。
突然手が離れる。どうしたのかと思い、顔を上げるとそこは出口だった。
係員が立って挨拶をしている。
魔法が完全に解ける場所。
現実へと戻る分岐点。本当はもう少しいたい。
けれど、我侭は言えないから。
俺はコンラッドを追って夢の国から現実へと戻っていった。
手を繋ぐことは無かった。


電車に揺られ、帰路へとつく。
隣にはコンラッドがいる。何をするわけでもなくぼーっと座っているだけ。
体を鍛えているとはいえ、さすがに疲れた。気を抜くと睡魔が襲ってくる。
ぼーっとして、舟をこいで慌てて起きる。それを懲りる事無く何度も繰り返す。
「ユーリ。」
何度目かでため息混じりにコンラッドが名前を呼んだ。
トロンとした目で見上げると少し強引に頭を肩に置かされた。
暖かい体温が寒いくらい涼しい車内にちょうど良い。
瞼が重くなり思考が低下してくる。
コンラッドが何かを言ってるが聞こえない。とりあえず「うん」と言っておいた。
大きな手が頭を撫でるのが心地よくて、起きようなんて思えなくなる。
コンラッド、肩凝るだろうな…。
「おやすみ。」
その言葉だけが、やけにクリアに聞こえた。そしてそのまま俺を暗闇へと連れて行く。
もう少しだけ。後数時間だけ。今日が終わるまで魔法を解かないでください。





行って来ました、ネズミー海。
色々ありましたが、とっても楽しかったのです。
色々と小説のネタにさせていただきましたー。ホントが何割か入っています。
何故だかコンラッドが節操ない人に;;
しかも、魔人に乗ってて思いついた私って…。
いつもながら稚拙なモノですがもう少しお付き合いください。

                     by aya kisaragi