霧が晴れたら

目が覚めたら辺りに濃霧が立ち込めていた。
蒼い色がついたような不思議な霧だった。
あぁ、これは目が覚めているんじゃない。目が開いているだけだ。
今見えているものは現実にはない。それだけは解かる。
「ユーリ。」
俺より少し低めな声が名前を呼ぶ。
どうやらこの濃霧の向こう側から呼んでいるみたいだ。
良く知っているヤツ。
カツンと足音を響かせて近寄ってくる。そいつが近寄ってくると不思議に濃霧が消えた。
現れたのは俺より髪が眺めな俺。
コレが魔王化したときの俺だと思うとなんだか不思議な気分だ。
「えっと…どうも。」
気の利いた言葉なんか思いつかず、とりあえず挨拶。
まぁ、挨拶は人付き合いの基本だしさ。
「なぁ、ユーリ。あの男はユーリだけの人か?」
俺の手を取って見つめるアイツ。
自分に見つめられるってのはとっても恥ずかしい事だと初めて気付いた。
見つめられる事ができる人だなんてなかなかいないだろうけど。
アイツが言ってる「男」とはコンラッドの事だろう。
さすが俺。俺の思っている事とかみんなお見通しって事か。
「そう…なるかな。」
照れくさくって俯いてしまう。
握っていた手を離して頬に手を添えられる。
「相手が男で、ユーリ自身も男でもか?」
首が絞められたように息苦しくなった。
事実を突きつけられただけなのに、その事実が俺の息の根を止めようとする。
「それでも俺は…。」
その続きを言葉にはできなかった。
理由は自分に自身がないから。
言葉に詰ってアイツを見ると、俺なんかよりもとっても苦しそうな顔をしていた。
どうしてお前がそんな顔するんだよ。
お前が言い出したんだろう。苦しいのはお前じゃなくて俺なんだ。
なのにどうして…どうしてそんな泣きそうな悲しい顔をするんだよ。
「それでもユーリは選ぶんだな、あの男を。」
優しく撫でられる頬は何故だか切なくて。
あぁ、アイツも何かあったんだなってなんとなくだけど思った。
きっと昔に俺と同じ境遇に立った事があるんだなって。
「コンラッドとなら頑張れると思うから。」
コレが今の俺の精一杯。
俺が俺だから好きでいてくれる。コンラッドがコンラッドだから好きになれる。
俺だけの人はコンラッド。
誰にも譲れない思い。
「そうか。」
儚くだけど微笑を浮かべて額を合わせる。
互いの髪が頬に擦れてくすぐったい。
「幸せになれると良いな。」
そう呟かれた言葉はやっぱり儚げだったけど、とても重みがあった。
心からの言葉なんだ。
「愛されるように頑張るさ。」
手を握ってちょっと自慢気に答えてやる。
アイツと話したおかげで心の中のモヤモヤが晴れた。
そう、まるで最初にアイツが現れた時みたいに。
「アンタも幸せになれるとイイな。」
「そうだな。」
今までの中で一番良い笑顔を浮かべて互いに目を閉じる。
たぶんもう、当分の間あえないだろうと直感した。
次に目を開けたら現実に戻るんだ。
そしてコンラッドに会ったら言おう。今、俺が思っていること。


朝日がカーテンの間を掻い潜って部屋を明るく照らす。
眩しさに目を覚ますと隣にはコンラッド。
どうやらコンラッドも今起きたらしく、上半身だけ起こしてボサボサになった髪を掻きあげていた。
太陽の光を浴びてその髪がキラキラと輝いている。
「おはよう、ユーリ。」
寝ぼけ眼の俺の頬にキスを落とす。
背に太陽の光を受けて神々しいばかりかカッコイイ。
思わずときめいてしまった。
あんな事があったばっかりだからかな、なんて意識してしまう。
「どうかしましたか?」
ぼーっと見つめていた俺を不信に思ったのか覗き込んでくる。
恋人扱いってよりむしろ子供を心配している親みたいだ。
年の差があるだけあって仕方ないのかもしれないけれど、俺的には気に食わない。
確かにコンラッドは俺の名付け親かもしれない。でも、恋人でもあるんだ。
むしろ、俺の中のコンラッドは恋人率の方が高い。
だからもっと恋人扱いして欲しいなんて思うのは俺の我侭なのかな。
そっと首に腕を回してキラキラ輝く髪に頬擦りする。
「大好きだよ。」
と、そっと耳打ちしてベッドからそそくさと降りる。
ベッドの上では面食らったのか固まったままのコンラッド。
大事なペンダントをつけて、してやったりと笑ってやる。
対するコンラッドはやられたっという顔をしながら頭を掻いた。
その仕草に笑みが零れてしまう。
「オレもですよ。」
ベッドに引っ張り込まれて抱き締められる。
柔らかい日差しの中、大好きな人の温もりを感じている俺は幸せ者なんだろう。
せいぜい愛されるように頑張ろう。





しっとりフェアー第二段(何だソレ)
コンユちょっとしかなくてすみません;;
大元のネタはCLAMPの「ちょびっツ」です。パロディーですね。
自分の気持ちと向き合うユーリが書きたかったんです。
あとは、久々に上様も。
でも、結局バカップルなんですよね。
こんな話でも楽しんでもらえたなら幸いです。

                     by aya kisaragi