個室 |
|
俺は今まで重大的な事を見落としていたかもしれない。 「だーかーらー!何でヴォルフが俺の部屋でくつろいでるんだよ!」 「婚約者なのだから当たり前だろう。ユーリはそんな事も解からないのか。 だからへなちょこと言われるんだ。魔王の以前にボクの婚約者なのだからしっかりしろ。」 色白の頬を膨らませてベッドの上で文句を言うのは我侭プーことヴォルフラム。 言い争うのも面倒で適当に言ってコンラッドの部屋へ逃げ込む。 「いらっしゃい、ユーリ。」 俺が来るなり紅茶を淹れてもてなしてくれる。 美味しい紅茶を啜りながら気付いたんだ。 もしかして、俺には個室ってモノがないんじゃないか? 気付いてしまっては後戻りができない。 俺だって年頃の男なんだ!個室が欲しい! ということで、とりあえずグウェンダルに相談してみた。 「そうか…。」 相変わらず眉間に皺を寄せて考え込む。 いや、確かに俺も悪いかもしれないけどね。 何せ今は職務時間中ですから。 書類に『渋谷有利原宿不利』とサインしながらこっそり相談。 なぜ、職務中なのかというと、コンラッドに聞かれるわけにはいかないからだ。 最近になってコンラッドが意外に嫉妬深いことに気が付いた。 こんな事相談したら「オレの部屋で生活すれば良いじゃないですか」の一言で片付けられてしまう。 そーゆーワケにはいかないんだ。 兎にも角にも個室が欲しい。 「とりあえず、私からもヴォルフラムに自室で寝るように言おう。それでどうにかなるとは思わんがな…。」 眉間に更に皺を刻みながら妥協策を出してくれる。 「ありがとう。」 新しい書類にサインしながらお礼を言う。 しかし、我侭プーの傍若無人ぶりには困ったものだよな…。 「ところで、このネコさんの里親になってはくれないか?」 どうみても黒ブタさんにしか見えないアミグルミを差し出された。 これ、ネコさんだったんだ。 「精神統一のために編んだのは良かったのだが、作りすぎてな…。」 「喜んでもらうよ。」 恥ずかしいのか、明後日の方向を見ながら差し出されたネコさん。 でも、どうみてもオレには黒ブタさんにしか見えなかった。 その夜、グウェンが言い聞かせてくれたらしく、寝る直前になってヴォルフラムが訪れた。 確かに自室での一人の時間は増えたけど…。 頭を抱える俺を知ってか知らぬか、横では天使のような寝顔で奇抜ないびきをヴォルフがかいている。 年頃の男ですから…夜だって一人で眠りたい時だってあるんですよ。 「あれー?坊ちゃんじゃないですかぁー。」 数日経って、職務の休み時間に庭を散歩していたらヨザックにあった。 逞しい腕を振って近付いてくる。 「久しぶりー。」 俺も手を振って答える。 一緒に庭を散歩しながら、諜報部員のヨザックならなんか知ってるかも!とかいう安易な考えで相談をしてみた。 「あぁ、それならうってつけな部屋がありますよ!」 って男らし手でポンと手を打って半ば俺を引きずるように血盟城の一室へと連れてこられる。 「ここは…?」 中に入ってみると、綺麗に整頓されていた。 ただ、生活感はあまりない。なんというか、ホテルのスイートルームみたいな感じ。 ベッドも俺の部屋の並みにデカイし。 でも、落ち着く。 「今じゃめっきり使われなくなった部屋ですよ。あんまり人が来ないので一人になれるはず。」 そう言われれば、この部屋の前の廊下を人が通った気配はない。 「え、何?何か出るとか?」 考えてしまうのは怪奇現象系統の内容。 恐々と部屋を見回す俺を隠す事もなく大笑いする隣のお庭番。 「出やしませんって。魔王のお膝元で出るとしたら眞王ぐらいじゃないですか?」 あっけらかんと笑うヨザックを思わず蹴りたくなった。我慢したけど。 「もう一人いるか。」 「ん?」 ボソっと呟いた言葉は俺の耳には届かなかった。 聞きなおしても何でもないと言われてしまってはもう一度聞く事はできなかった。 重要な一言だったのに。 それからオレは夜な夜なヴォルフの目を盗んであの部屋へと通った。 もちろん、コンラッドより早く起きてマラソンの用意もしなくてはいけなかったので、多少大変だったが、個室には変えられなかった。 そんな生活が数日過ぎたある日。 いつものようにヴォルフラムの奇抜ないびきを合図に部屋を出る。 ヨザックに教えてもらった警備に見付らない抜け道を通って俺の個室へと向かう。 周りに気を付けながら鍵をあけて部屋の中へと体を滑らせて、内側から鍵をかける。 毎日すればなれたもので、テーブルの上に鍵を置いて窓際に設置されたベッドへとダイブした。 程よい弾力が体を包む。 普段、地球で平凡な暮らしをしている俺にとっては自分の部屋のベッドより、こっちのベッドの硬さの方が好みだったりする。 まぁ、大きさ的にはもう少し小さくても良い気がするが。 ベッドに寝転びながら闇夜に浮かぶ月を眺める。 自分の部屋より眺めが良い。そういえば、最近コンラッドの部屋に行ってなかったことに気が付いた。 いつもだったらコンラッドと月見酒ならぬ月見茶会を開いているから。 不意にこの広い部屋に一人という事が心細くなってくる。 考えてみるとコンラッドとの時間が最近めっきり少なくなっていた。 今までは毎晩のように部屋に入り浸っていたのに。 人肌が…コンラッドの温もりが恋しくて、コンラッドにもらったタオルケットを頭から被る。 コンラッドの匂いが鼻を擽った。 そして背中には心地良い温もり。……温もりぃ!? 「こんな所で何をしているんですか?」 タオルケットごと俺を抱き込むコンラッド。 夢を見ているのかと手の甲を摘んでみるが痛いだけで、ということは夢ではないという事で。 パニックで筋肉脳の俺の頭はキャリーオーバーでショートしそうだ。 「なっなんで!?」 唯一言えた言葉はありきたりな事。 考えられる事と言えば、ヨザックがコンラッドに言った事ぐらい。 でも、鍵は俺が持っているわけで。でも、合鍵ぐらいあってもおかしくないわけで。 「何でって…ココはオレの部屋ですから。」 コンラッドの口からでた答えは俺の予想を遥かに上回るものだった。 ココが、コンラッドの部屋!? 信じられないと少し無理な体勢でコンラッドを見ると、その手には確かに鍵が握られていて。 テーブルを見ても俺が持っていた鍵が鎮座していた。 何より、俺の持っていた鍵よりコンラッドの持っている鍵のほうが少し豪華。 ということは、コンラッドの鍵がマスターキーで、俺の持っている鍵が合鍵とうわけだ。 道理で落ち着くはずだ。この部屋の隅々にコンラッドの気配があるから。 寂しくなったのはコンラッドの気配しかなかったから。 「ビックリしましたよ。久々にこの部屋に来てみたらユーリが居るんですから。」 密着した部分から声の振動が伝わってきてむず痒い。 でも、それすら気持ちが良い。 「コンラッドの部屋なんて知らなくてさ。ヨザックに教えてもらったんだよ、ココ。 俺が個室が欲しいって言ったら丁度良い部屋があるって。鍵もヨザックがくれたんだよ。」 体重を後ろから抱き締めているコンラッドに預けた。 「オレもヨザックに言われてココに来たんですよ。宝物が隠してあるって。ホントにありましたね。」 頬にキスをされて恥ずかしくて俯いた。 さっきまで寂しく感じさせた月明かりが今では眩しく感じる。 「やられたー…。」 せっかく個室が手に入って悩み事が消えたはずだったのに。 たった数日で個室から密会場所になってしまうなんて。 「ヨザックにはお礼を言わないといけませんんね。」 「俺は文句を言うね!」 いつかのヴォルフみたいに頬を膨らませて文句を言う。 明日会ったら思いっきり文句を言ってやるんだ。 嫌という程、嫌味や文句を言った後に一言だけ言おう。 ありがとうって。 俺とコンラッドのちょっとマッチョすぎる気がする愛のキューピッドに。 ![]() 今年初めての小説ですね。 久々で申し訳ありません。そして、ブランクのせいか、文が多少(いや、結構)おかしいですね。 しっとりめなお話を書きたかったんですよ。 最近バカップルみないな話ばっかだったんで。 でも、玉砕。なんなんですか、このカップル。バカップルめ! コンラッドだって一応、前魔王様の息子さんなんですから、イイお部屋があったってイイじゃないか! ってなことで勝手に部屋を作ってみました。 でも、次男の事だからゴージャスじゃなくて質素なんだろうな的なお部屋です。 あと、ヨザック好きです。脇役に使うの大好きです。 使いやすいですしね。さすが諜報部員(関係ないだろう) 題名がちょっと裏っぽいですよね。期待した方、申し訳ありません(笑) イイ題名が思いつきませんでした…。 by aya kisaragi |