Love Me Tender

珍しく俺が先に起きた。隣には、すやすやと眠る彼がいる。
俺がパジャマの上を占領しているせいで、調えられた筋肉が曝け出されていた。
至る所に傷があり、男らしさを強調しているようにも見える。
規則正しく上下運動を繰り返す胸板に触れる。
ふと、昨晩の事を思い出し頬を赤らめた。
自分の早鐘のように鳴る鼓動とは違い、トクトクと穏やかにリズムを刻むソレ。
その心地良さに促されるようにキメ細やかな肌の上にある傷に指を這わす。
思わず口ずさむ歌は甘いラブソング。確か、凄く有名なヤツ。
英詩だからいまいち意味が解からないが、雰囲気が好きだ。
コンラッドを思い言葉を紡ぐ。
あの、夢見がちな母親が歌っていたのを聞いて覚えたので、かなりうろ覚えであるが。
沢山の傷は大切なモノを守ってきた証。俺は今、その大切なモノの王様。
けれど、これ以上の傷を増やして欲しくは無い。増やさせはしない。
だからもっと、しっかりしなくてはと心に決める。
なんだか視線を感じて、元の方を辿ってみると、じっと見つめている双眸と合った。
思わず歌うのも忘れてしまうくらい驚き、瞬時に羞恥心でいっぱいになる。
「いっ…いつから起きてたんだよ!?」
声が裏返ってしまう。凄く恥ずかしい。血液が凄い勢いで循環している。
いつから見られていたのだろう。夢中になり過ぎていて気が付かなかった。
目を細め喉を鳴らしながら笑い、梳くように髪を撫でられる。
それが気持ちよくて、怒るのも抵抗するのも忘れただ、その行為を受け入れてしまう。
上なんか、目なんか見ることができるはずもなく、皺が寄ったシーツをただただ凝視する。
「ユーリが歌いだした頃からかな?くすぐったくてね。
最初は子猫でも迷い込んだのかと思いましたよ。」
クスリと笑い唇に触れ、そっと形をなぞられる。軽く潤った唇は逆らうことなく程よく滑る。
くすぐったくて身を捩る俺を捕まえるように抱き込み、ついばむようなキスをされた。
「ユーリ、もっとさっきの歌、歌ってください。」
耳に流し込むように囁かれると軽く震える。はっきり言って、コイツは腹黒だ。
そして、今日は甘えてくる。まるでデカイ猫。イヤ、獅子かもしれない。とにかく猫科。
「歌えって……コンラッドの方が英語しゃべれるから発音イイだろ?」
俺、野球馬鹿だからさ。それにアンタ、アメリカにいたじゃん。
俺もいたけど…そんなに記憶がないし。
「ユーリが歌ってくれなきゃ意味がないんですよ。」
ちゅっと音を立てて額にキスをし、髪を梳かれる。
指を絡ませて手を繋ぎ、機嫌を取るかの様に至る所にキスの雨を降らされる。
「お願い、ユーリ。」
こうまでされては「イヤだ」なんて断ることはできない。
ましてや愛しい人なら余計に。
しょうがないなと呟き、大人しくコンラッドの腕の中に収まる。
そして、背中を預けるようにして、膝の上に座った。
高鳴る鼓動を押さえ付るために一呼吸置き、最初のパートから歌いだす。

後ろからぎゅっと抱き締め歌に聞き入る。
つなたい英語が愛しく感じると同時に嬉しくて堪らなかった。
ユーリが歌うのはスローテンポなラブソング。今だけはオレだけを思ってくれる。
独り占めできる。自分でもあくどく、醜い心を持っていると思う。
それでも少しでも長く、多く傍に居られるのなら。
オレの全てを明渡しても悔いはない。
愛しい人と過ごせるならば。
Love Me Tender ――――――。




コンラッドのキャラソン発売記念SSでした。
コンラッドが歌ってたのでこれは!と思い。
色々なサイト様で「Love Me Tender」ネタを見るのですが…。
何かコンラッドと関わりがあるのでしょうか?
なんだかすっごく気になるところ。
ちなみに、この話しの前後はきっと裏(笑)

                     by aya kisaragi