I dedicate myself to dear.

はい、みなさんこんいちはー!
あれー?声が小さいぞ?
じゃぁ、もう一回。
こんにちはー。
「はい、こんにちはー。」
頭の中で流していた子供番組のお兄さんとのやり取りに、思わず答えてしまった俺。
村田が突然の俺の発言にかなりビビっている。
あぁ、大賢ジャーでもビックリするんだ。ざまーみろ。
「あのさ、渋谷。やる気あるの?」
作業を放り出した俺をちょっと冷ややかな目で見つめる村田。
「だってさー…さすがに飽きたんだけど。」
「でも、渋谷が言い出したんだよ。」
咎めながらも俺に新しい粘土を渡す。
そしてソレを受け取っちゃう俺。
「だって、粘土するなんて思ってなかったんだよ。」
不機嫌に尻尾を揺らして村田の腕を叩く。
「粘土じゃないよ。形作って焼くと、純銀のアクセサリーが作れるんだってば。」
そう、俺は今アクセサリー作りをしているのだ。
すっかり忘れていたけど、今日は俺とコンラッドが付き合って一年目の記念日。
廊下に落ちていたギュンターの日記を盗み見て気付いた事実だ。
元々迷惑ばかりかけていたけれど、こんな姿になってから更に迷惑をかけてしまっている。
ありがとうの気持ちを伝えたくて村田に相談したらこうゆう事になった。
「うー…。」
小さい両手を必死に動かして粘土を捏ねる。
形作るためにはまず、捏ねて柔らかくしなければならないのだ。
これがまた、力のいる作業で。
「疲れたぁ〜…。」
全体的に縮んでいる俺は、それに比例して力も弱まっていた。
横で作業している村田が溜息を吐く。
「仕方ないなぁ…休憩にしようか。」
すっと手を上げると、どこにいたのかヨザックがピンク色のメイド服を着込んで出てきた。
ヨザックの押すカートの上には、クッキーと紅茶が乗っている。
村田が席を立って手を洗いに向かう。
当然、粘土まみれになっている俺もその後を追う。
「あ、渋谷は座って待ってて。」
告げると村田は早足に行ってしまった。
座って待っててと言われても、もう既に降りてしまった。
イスは俺の背より高いので手を使わないと上れない。
が、俺の手は粘土だらけで使えない。
困って俺はイスを見上げた。
「お乗せいたしましょうか?」
物腰柔らかく、でも筋肉隆々なメイドことヨザックが尋ねてくれた。
「お願い。」
抱っこのポーズを取ると、ひょいっと簡単に持ち上げられて、イスに座らされた。
「ありがと。」
尻尾で腕を撫でると、ヨザックが乱暴に髪をかき混ぜた。
そのまま耳と尻尾を撫でられる。
神経が集まっているその二つをいっぺんに弄られると堪らない。
「んっ…ヨザぁ…。」
ぐるぐると喉を鳴らして身じろぐ。
楽しそうな忍び笑いが上から降り落ちてくる。
「何してるの、ヨザック。」
部屋の温度が一気に下がるような冷たい声を発したのは誰でもない村田。
面白いように飛び跳ねて、一気に間合いを取るのはヨザック。
「ごめんね、渋谷。お待たせ。」
何事も無かったかのようにいつもと変わらない声音で村田は近付いてくる。
でも、目が笑ってなかった。
「はい、手を拭くよー。」
幼稚園児にするように俺の手をタオルで拭いてくれる村田。
チラッと横目でヨザックを確認すると、かなり慌ててお茶の用意をしていた。
両手とついでに顔まで拭かれて綺麗になった俺は、着ていたスモッグを脱いでクッキーが乗っているテーブルへ向かった。
後ろから村田が付いて来る。
「へーかぁー!」
さぁ、お茶だ!と思った瞬間、勢い良くドアが開いた。
ビックリしてドアの向こう側に居る人を見る俺と村田とヨザック。
なんと、そこに居たのはセクシークイーンのツェリ様。
手にはこれまたスゴーイモノをお持ちになっている。
「どうしたんですか?」
優雅にお茶を飲みながら傍観している村田はとても楽しそうだった。
何故って…ツェリ様の手には物凄くフリフリな子供服があったからだ。
「これをね、陛下にと思って。今日はコンラッドのとの記念日なんでしょう!おめかししないと!」
意気込み鼻息荒く熱弁するツェリ様。
はっきり言って恐い。
「そんな気にしなくても…。」
「いーえ!こうゆう行事はちゃんとしなくてはダメよ!なんたって二人の愛が更に深まるのだから!
何より、陛下とコンラートの事ですからね。たんとおめかしして、コンラートを驚かせてあげましょうね♪」
ゴーイングマイウェイで進めていくツェリ様に圧倒されてしまう俺。
困ったように村田を見つめると、また溜息を吐かれた。
「おめかしも良いけど、先に形作らないと間に合わないよ。おめかしはそれからにしたら?」
「あら、それは大変ね!さぁ、陛下!素敵なプレゼントをお作りなって。」
語尾にハートマークを付きそうな応援をすると、俺が飲むはずだった紅茶を飲み始めた。
仕方なく俺は再びスモッグに手を通して作業を再開した。



あれから散々、着せがえごっこをさせられて、結局新しい服を作る事になった。
黒と白のシルクのような布をふんだんに使ったドレス。
というか、メイド服。
どこからどう見たってメイド服・豪華版。
頭にはもちろんヘッドドレスが付いてますよ、問題でも?
この姿になってから女装しかしてない気がするが今日のところは忘れておこう。
「可愛いね、渋谷。とっても似合ってる。」
笑いをめちゃくちゃ堪えている村田。
恥ずかしいやら情けないやらで、涙が滲む。
そんな俺の様子に慌てたのか、パチンと指を慣らしてヨザックを呼んだ。
ヨザックって村田の下僕?
「はい、お待たせ。ちゃんとできたよ。」
ケースから取り出して見られたそれは銀独特の輝きを放っていた。
表には「貴方に捧げます」と眞魔国語で書いてあって、裏には「ユーリからコンラッドへ」と彫ってある。
ちなみに文章は俺が考えたわけではなく、村田が考えた。
『プレゼントにならこーゆーのを彫るのがこっちでは一般だよ』とか嘘を吐かれた。
気付いたのは服を作ってる際にグウェンダルに話した時で、そのときには既にこのプレゼントは釜の中だった。
ペンダントチャームはプレートぽくなっていて、俺のモノと合体する。
合体すると裏にハートが浮かび上がるという、かなりくさいモノに出来上がってしまった。
「村田、ありがとな。」
コンラッドへのプレゼントを包装してもらいながら告げた。
ヨザックは俺にペンダントをつけてくれる。
「良いって。この借りはいつか返してもらうからさ。」
軽く答えると俺の尻尾にプレゼントを括りつけた。
そして何やら俺の耳に囁いた。
ビックリして振り返るとウインクされ、ヨザックにはグッジョブと親指を立てられた。
頭の中で村田に言われた事を復唱してコンラッドの部屋と向かう。
「どうぞ。」
ノックを二回すると、聞きなれた声と共にドアが開かれた。
思わず、スカートの裾を握ってしまう。
「…ユーリ?」
俺の格好にビックリしたのか、言葉の次が継げないらしい。
とりあえず、コンラッドに促されて部屋へと入った。
背後で鍵の閉まる重い音がした。
「どうしたんです?」
その格好と続きそうなコンラッドの顔。
見つめていたら星の散りばめられた瞳とぶつかった。
頭の中で村田に言われた事が踊る。
「こっ…コンラッド様。今宵をもって、わっ私との関係が一周年を迎えるのを…ご存知でしょうか!?」
あー!語尾を間違えて、強調文になってしまった。
泣きたい。もう泣きたい。
恥ずかしいし、いたたまれないし。
それでも俺は村田に教えられた事を言うべく、口をひらいた。
コンラッドの視線が痛いほど感じる。
「これはっ…ささやかな気持ちです。」
縮こまった尻尾をおずおずと差し出す。
尻尾の先には村田に括り付けられたプレゼント。
「これをオレに?」
部屋に入ってから初めてのコンラッドの言葉。
とりわけなんでもない言葉なのに、心に染み渡る。
「受け取ってください。」
我慢できずに、とうとう頬に涙が伝った。
その瞬間、コンラッドに抱き締められる。力強い抱擁。
キスを交わして、一旦身を離す。
そして、俺の尻尾からプレゼントをとった。
「これは…ユーリの手作り?」
感嘆まじりの声で問いかけてくるコンラッド。
嬉しい。コンラッドの喜ぶ姿が俺の心を躍らす。
「拙くてごめんな。でも、精一杯作ったんだ。」
たぶん満面の笑みをコンラッドに向けているだろう。
俺も嬉しいのだ。
「そんなこと無い。素敵なプレゼントですよ。」
俺を抱き上げてベッドに座る。
俺はコンラッドの膝を跨ぐ形で抱き付く。
コンラッドの匂いが俺を包んで、落ち着いた。
「それに、ユーリがこんな格好して誘ってくれたんですし。」
チュっと音を立てて唇を啄ばまれた。
「さっ誘ってなんか!!」
「こんな格好してそれは無いでしょう。
さぁ、今度はユーリをいただきますかね。今日は寝かせませんよ。」
恐怖の宣言をされて青ざめる。
冗談じゃない、今日はもう眠いんだ。
慌てて膝から飛び降りようとするが、ガッチリ腰を掴まれていて動けない。
「愛してますよ、ユーリ。これからもよろしく。」
「俺はアンタなんか、嫌いだ!」
きっと睨むと、コンラッドの目が鋭く光った。
どうやら地雷を踏んでしまったみたいだ。
「ほぅ…。素直じゃないですね。結構ですよ。嫌というくらい『好き』と言わさせてあげますから。」
悪魔の囁きが俺を捕まえる。
心の中で村田とツェリ様を呪った。
そして、何より目の前の男を恨んだ。
こうして眞魔国の夜が更けていった。
翌日の新聞にはメイド服姿のユーリが一面を飾っていた。
もちろん、ネコ耳はうまい感じにフォロー済みで。
この事にユーリが気付くのは、新聞がみなの手に渡ってから十分に時間が経ってからのことであった。




一周年記念小説第二段。
我がサイトの主となりつつ「恋人はxxx」シリーズからでした。
夢の中でネコ耳ユーリに言われたんですよ。
「俺たちの出番はないの?」って(笑)
で、予定に無かった彼らを書くことになりました。
結局最後は災難な目にあう可哀想なユーリ。
というか、ユーリの人格が危ういですね。元から脱線しすぎているかも;;
題名の「I dedicate myself to dear.」はコンラッドへのプレゼントに彫ってあるものと同じ内容です。
英語、苦手なので文法的におかしいかもしれません;;
ちなみに余談ですがユーリのペンダントには英語でコレが彫ってあります。
あと、手作り銀チャームは焼きあがったら磨かなきゃいけません。
たぶんヨザック一人で必死に磨いたんでしょう(笑)
こんなモノですが皆様に楽しんでいただけたら幸いです。
これからも頑張って運営していくので、なにとぞよろしくお願いいたします。

                     by aya kisaragi