Spice is...

それは昼下がりのおやつを食べている時の事だった。
「渋谷ー。」
「よー村田。」
前世の記憶をしっかり覚えているある意味スパーな友人。
実は猊下って俺の次に偉い人なんだが。
「珍しいな、お前がこっちくるの。」
「んー…そうだね。それより、イイ事聞きたくない?」
にやりと口角を上げて笑う村田。
あんまりいい話しではなさそうだ。
「イイ事…?」
とりあえず、聞くだけ聞いてみる。こう見えても、コイツは情報通だし。
「そ、ウェラー卿について。」



今、俺はコンラッドの部屋にいる。
俺の部屋は何故だかヴォルフラムが居座っているのでもう、恒例である。
もし、違うとすれば、俺がガチガチに緊張している事だろう。
村田が変な事言うから……。
「どうかしましたか?」
頬を撫でられる。剣タコがある俺の大好きな掌で。
「何でもないよ。」
その手に自分のを重ねて微笑み返す。
コンラッドは首を傾げながらも髪を梳いて離れていった。
「あ、あのさ。」
「何ですか?」
寝れなくなると困ると言うことでミルクティーを入れているコンラッドに意を決して話しかける。
普段は静かに見守っている俺が話しかけたのでコンラッドは驚いた様子で作業を中断した。
「えっとー…。」
なかなか言い出さない俺を不審がり、俺の目線に合わせて跪く。
「ユーリ…?」
俯いた俺の目を隠す前髪を掻き揚げながら顔を覗き込んでくる。
接近してきた顔にドキリと胸が高鳴る。
心音が聞こえてなければイイのだけれど。
「何かあったんですか…?」
心配そうに見上げてくるコンラッドが、どうしてが忠犬ハチ公に見えて仕方がなかった。
「ユーリ…?」
くぅーん。
おぉ、幻覚、幻聴まで起こってきたぞ。
コンラッドに犬耳と尻尾が生えているように見える。
「ぷっ…。」
とうとう俺は堪えきれず噴出してしまった。
「ユーリ…何笑っているんですか?」
「ごめ…ははっ…ちょっと…。」
笑いが止まらず結局腹を抱えて大爆笑してしまった。
恋人が不機嫌になっていくのにも気付かずに。
「ユーリ。」
「ん?って…えぇ!?」
落ち着いてきた頃、名前を呼ばれて振り返ると同時に抱きかかえられて、ベッドへと連行された。
ベッドに横たえられて上に覆いかぶさられる。
「コンラッド…?」
いつのまにやら恋人は忠犬ハチ公から赤頭巾に登場するような狼になっていた。
残念なことに、ココには猟師がいないが。
「何考えていたんですか?」
「それは…。」
不機嫌な原因は俺が笑ったことらしい。
まぁ、当たり前か。
「怒るなよ?」
俺は事の次第を全て話した。
「忠犬ハチ公って、日本にいるっていう犬の事ですよね?」
「正確にはいたんだけど。」
俺も会ったことないし。
渋谷には銅像としてみんなの集合場所になってはいるけど。
「それならユーリはネコだ。黒ネコ。」
「目の前横切ったらアウトだな。」
くすくすと笑い合って、どちらからともなく口付ける。
触れるだけの軽い口付け。けれど、とても甘いキス。
「それ以外の事も考えていたでしょう?」
目敏いウェラー卿さんはすっかりお見通しのようだった。
これだから彼には頭が上がらない。
「あのさ、コンラッド。」
「何です?」
髪を掻き揚げて耳にキスを落とされる。
くすぐったくて捩る体を押さえ込まれて、シーツに縫い付けられた。
「コンラッドもでこチューして欲しいの?」
コンラッドが伸し掛かるせいで身動きがとれないので、上目遣いの形で問う。
「誰がそんな事…。」
「村田。」
猊下か…と呟きながら溜息をつく。
困ったように頬を掻きながら微笑む。
「ウェラー卿が俺がグレタにでこチューするのを羨ましそうに眺めてたって言っててさ…。
あ、勘違いならそう言っていいからな!アイツが俺をからかってるだけかも…。」
わたわたと焦る俺を抱きしめて囁く。
「是非して欲しいですね。独り占めするグレタがいつも羨ましい…。」
「なっ…俺とグレタは親子だぜ!」
体温と心音が急上昇するのを必死に押さえながら身じろぐ。
閉じ込めるように抱きしめられて、抵抗を抑え込まれる。
「それでも、オレはユーリを独り占めしたいんです。」
感情が高ぶっているせいなのか、掠れる彼の声には色気すら感じる。
俺を一心に見つめる星が輝く瞳からは目を逸らせなくなる。
「キスして、ユーリ。」
呪文のように呟かれた言葉に俺は従順に従い、コンラッドの額に口付けをした。
ちゅっと音を立てて離れた唇はすぐさまコンラッドのソレに捕らえられた。
ついでだから首に手を回して抱き締めてやる。
気を良くした狼も抱きしめる腕に力を込めてきた。
こうして俺は翌日泣きを見るほど愛される。
それでもイイかと甘い考えを持ってしまうのは彼だからかもしれない。





まあさ様とのリンク記念に書かせていただきました。
リクは「次男にでこチュー」。
でこチュー最後にしか出てこない!!
村田さんが書きたかったんです。村田さんが。
出来たら続きが書きたいです。
その後とかコンラッド視点とか。


                     by aya kisaragi