Dear...

揺れる花。一面金色に埋め尽くされた土地。
魔王のお膝もとのこの地で私はバカンスを堪能いています。
といってもただのバカンスではなくてお付なのだが。しかも、あのお庭番の。
。」
呼ばれて振り返ってみるとお庭番ことグリエ・ヨザックが逞しい腕に花を抱えていた。
風に吹かれて揺れる花。
大好きな人の髪色にそっくりな鮮やかな濃いオレンジ色のヒマワリ。
「どうしたの、それ?」
眼下に広がる金色の元と同じヒマワリを持っているヨザックに思わず疑いの眼差しを向けた。
まさか手折ってきたわけではなかろうかと。
凄腕の諜報部員なだけあってすぐさま人の表情を読み取ったらしく苦笑を向けてきた。
「そこで作業してたおばちゃんに貰った。ホントだって!」
疑いの眼差しを向けたままにしていたら、面白い踊りを披露しながら弁解してくる。
実に面白い。
思わず笑ってしまった。すると、面白い踊りはピタリと止まり、そのかわり不機嫌な顔を向けてくる。
ほんのり頬を膨らませてチラリとこちらを見ると目を背ける。
昔と変わらない拗ね方。
そういえばあの時もこんな良く晴れた日だったな。
それはまだ、私たちが幼かった頃の話。


熱い日差しが降り注ぐ大地の元、私とヨザックとコンラッドは川原に遊びに来ていた。
暑さに参ってヴォルフラムは倒れているし、グウェンダルはお勉強があるらしい。
結局、いつもの三人になってしまった。
一応着替えは持ってきたので濡れても問題は無い。
そう思うと遠慮がなくなり、思いっきり遊べるはずだった。
しかし、川辺についてみると先日の大雨のせいか川の水が増幅していた。
これでは遊ぶどころではない。むしろ一歩間違えたら命が無い。
そこまでして遊びたいわけではないのでとりやめになった。
けれども、炎天下で走り回る気も起きない。とりあえず、木陰となりうる大きな木の下へと向かった。
「うわぁー!見て、凄いよ!」
するとどうだろう。目の前には金色畑が広がっていた。
嬉しくなって自分の背丈以上もあるヒマワリへ駆けていった。
「ちょっ、!!」
慌てたのはヨザック。私が放り出した荷物を慌てて受け取り、すでに木陰で休んでいるコンラッドの横に降ろす。
そして休むまもなく追いかけるべく駆けていった。
「まてよ、!あんま遠くに行くなって。」
「大丈夫だって。それにおっきなヒマワリのおかげで暑くないよ。コンラッドもくればよかったのにね。」
パタパタと軽い足音を立てて駆け回る。
しばらく走ると開けた場所に出た。日陰になれた目が眩しさに眩む。
いきなりの急停車に追いかけていたヨザックがつんのめった。
「いきなり止まるなよ。危ないだろ。」
ポンと頭を叩く。ちょっぴり頬を膨らませて睨み上げるが効果は全く無い。
むしろ可愛さが込み上げてくる。
川原からの涼しげな風が頬を撫でた。
「凄いね。ヒマワリがいっぱい。しかもどれも大きいの。」
目をキラキラさせて眺めた。どのヒマワリも太陽の光を浴びて生き生きとしている。
開けた場所はぽっかりと穴が開いたかのように円形だった。
うっとりとヒマワリを見回す。どれも甲乙つけ難い素晴らしいヒマワリだった。
「ヨザック…?」
今まで煩い程あれこれ言っていたヨザックがだんまりなのを不審に思って尋ねる。
が、返事をしない。それどころか、不機嫌そのものだった。
ほんのり頬を膨らませてチラリとこちらを見ると目を背ける。
「ヨザック…?」
慌てて駆け寄るが目を合わせてくれない。
服を引っ張ったり腕を叩いたりするが全く反応しない。
立ったまま気絶しているわけでもない。無視をしているのだ。
どうしよう。理由が分からないが、きっと私が悪いのだろう。
このままだともう、ヨザックは口をきいてくれないかもしれない。それだけは嫌だ。
今日だって久々だったのに。
最近、二人とも剣の稽古で滅多に遊べない。今日はたまたま休みになったのだ。
なのに、こんなのって…。
考えれば考えるほど気分は落ち込んで、とまらなくなっていく。
いたたまれなくなって逃げ出してしまった。ヨザックをそこに放置して。
!?」
突然駆けて行ってしまったに驚いて顔を上げるが…そこにはもう、の姿はなかった。
「マジかよ…。」
いくらここいらが治安が良いからといって、人気が無いこんなところに女の子一人。
危険極まりない。
大体、あいつは自分が女っていう自覚がないんだから!
今更自分のした行為を後悔したって遅い。とにかく今はの身柄確保だ。
消えていったと思われる方向へ駆けていった。
「あ…。」
見下ろす程大きなヒマワリを見てニヤリと笑みを浮かべた。

「はぁっ…。」
思わず逃げ出してしまったことに後悔する。
しかし、今更したところでどうしようもない。
それに追い討ちをかけるように迷ってしまった。あんなに素晴らしいと思った金色のヒマワリが今じゃ恨めしい。
次第に涙が込み上げてくる。泣いちゃいけない。泣くなと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、涙が滲む。
「ヨザックのバカぁ…。」
「おいおい、誰が馬鹿だって?」
いないはずの人に向けた言葉に返す言葉。
先ほどとは変わって驚いて私が顔を上げた。
「えっ!?」
ぐいって押し付けられるのはヒマワリの花。
彼の髪色にそっくりの鮮やかなオレンジ。
自分が何に焦っていたのかなんて忘れて、その花に見入ってしまった。
自分の大好きな色に囲まれて、大好きな人から貰った大好きな花を。


「拗ねないでよ。」
服の裾を引っ張るが少しもこちらを見てくれない。
あの頃と全く変わってないなぁ…。
思わず零れそうになる笑みを抑えて、数歩近づく。
?」
不審に思って振り向くヨザック。
そして、そっとキスをした。
驚いて固まっているヨザックからヒマワリの花束を奪って走っていく。
「これ、もらってくから。」
両手に抱えきれない花束を精一杯両手に抱えてヒマワリ畑へと駆けて行く。
ヒマワリを一輪、また一輪と花を零しながら。
あの頃自分を見下ろしていたヒマワリを今度は逆に見下ろしながら。
大好きな色に囲まれて、大好きな花を抱えながら大事な思い出の場所へと大好きな彼が追いかけているのを感じながら。
「ヨザックのバーカ。」
「おいおい、誰が馬鹿だって!?」
あの頃より成長した二人。
気づいてた?言葉遣いが変わったこと。
貴方の横にいても恥ずかしくない人になろうと思ったから変わったの。
でも、あの頃と変わらない気持ちが一つ。
あの頃から私は貴方に恋をしています。
それは今でも変わらず、日に日に大きくなっていきます。
まるで太陽の光を一心に浴びて大きくなるヒマワリのように。
私は蕾を持っています。
太陽のみたいな鮮やかなオレンジ色の大きな大きな花を咲かす蕾。
水をやるのを忘れないでください。貴方しかできない仕事を。
ねぇ、いつ咲かせてくれるの?
「ヨザック以外いないでしょ。だから、バカだって言うんだよ。」
貴方以外咲かすことが出来ない、この花を。
「そーゆー事いう口は…。」
後ろから抱き締められて身動きがとれない。
身じろぐ体を反転させられる。ヒマワリが舞い落ちる。
「塞いでやる。」
言い終わらないうちに唇をヨザックのソレで塞がれる。 ビックリして固まっていると、一旦離れて困った顔をされて大きな手で目隠しされた。
意図を察して目を閉じる。
優しく抱き締められて口付けをされる。
手元に残った一輪のヒマワリ。
「好きだよ、。」
大輪が咲き誇るまであと少し。





夏といえば色々ありますが、ヒマワリ!
ヒマワリ=ヨザック!!
彼以外思いつきません。彼の素敵な髪色(笑)
今回はさっぱり目に。
てか、前回書いた時よりキャラクターが変わってしまいました。
真様ごめんなさい(>_<)
せっかく許可をいただいて書いたのにこんなモノになってしまって;;
真様のみお持ち帰り可といことで。

                     by aya kisaragi