名を呼ぶもの

「ねぇ、コンラッド。」
珍しく書類を書いていたコンラッドは、作業の手を休めてこちらを見る。
「どうしたんですか?」
その目の前にずいっとあるモノを出す。
きょとんとそれを見つめているコンラッドを尻目にボタンを押した。
「Connie.」
素晴らしい発音で男性が読み上げる。
コンラッドが微妙な顔で機械と私を交互に見た。
面白くてもう一度ボタンを押す。
「Conrad. Connie.」
交互に押したり、連打したり、とにかくコンラッドの微妙な反応を楽しむ。
何度かそれを繰り返していたら、スラスラと読み上げるソレをついに取り上げられた。
しかも、取り返せないように手の届かないコンラッドの頭上へと持ち上げられる。
「ちょっ…!返してよ!」
爪先で何度も飛び跳ねるが、全く届かない。ただ、イタズラに体力が減っていくだけだった。
ちくしょう!身長差があり過ぎて全然届かない!
半分タックルをかましながら飛び跳ね続ける。
すると、今まで黙ってみていたコンラッドが私の肩を抑えて飛び跳ねるのを止めた。
「こんなのでオレを呼ばないで下さい。」
つんと澄ました顔で言い放つと何故だかお風呂のお供、ビニール製のアヒルの隣に置かれてしまった。
押さえていた手も退けられて身体は自由になったが、高い所に置かれてしまってジャンプだけでは届かない。
もしかして…。
「あのさ、もしかして拗ねてるの?」
こんな道具で呼んだから。
「どうでしょうね?」
意味ありげに笑うと再び作業に戻ってしまった。
残された私はアヒルの横を陣取っている電子辞書を呆然と見詰める。
アレ、新品なんだけどなぁ…。
チラリとコンラッドを見ると作業に集中していた。
私のことなんか眼中にない。いくら仕事があるからって、それは何でも酷いじゃないか。
近くに居るのに遠すぎる。
「コニー。」
ゆっくり顔を上げてこちらを見る。
「私さ、これからコンラッドのことコニーって呼ぶから。」
?」
言っている事が解からないともいうようにじっと見つめてくる。
それを尻目に私は椅子を用意して電子辞書へと手を伸ばした。
あと少しなのに手が届かない。意を決して慎重に背伸びをする。
その一瞬、視界が大きく揺らいだ。
っ!」
ガタンと椅子が音を立てて目の前で倒れていた。
衝撃に備えて縮こまっていた体は暖かい何かに包まれている。
恐る恐る目を開くとコンラッドのドアップだった。
ブラウンアイは少しきつめに閉じられている。
鈍っていた頭が回転しだし、コンラッドが抱きとめてくれた事にやっと気付いた。
身を挺して助けてくれたコンラッドは背中を強打したみたいで掠れた声で呻いている。
不謹慎だが、その艶っぽさにときめいてしまった。
「コンラッド…。」
そっと頬を撫でると薄く瞳が開いた。
後方でインク瓶が音を立てて落ちる。駆けて来る際にひっくり返したらしい。
かすかにインクが滴る水音がする。
「大丈夫ですか?」
そっと抱き締めて確認してくる。それに返す良い言葉が見つからないので腕を回す事で返事をした。
クスリと笑い漏れた息が耳にかかる。
「あんな呼び方しないで下さい。今度呼んだら、ただじゃおきませんからね。」
力強く抱き締められて受けるお咎めに、どうしてだか心から嬉しくなった。
回した腕に力を入れる。
「コニー。」
笑いながら何度も呼ぶ。
溜息を吐くコンラッドはどこか楽しそうだった。
ちゅっと唇を啄ばまれると、それを合図に顔中に雨を降らされた。
受けるお仕置きは甘い蜜。





誕生日に頼んだ電子辞書をやっともらったので早速使い、
「コンラッド」とい単語を入っている昨日を片っ端から使っていた時、
英和辞書を見たところ、愛称が載ってたので嬉しくって(?)連打した実話を元に書きました(笑)
でも、コニーって言われるとポン○ッキの「コニーちゃん」しか出てきません(爆)

                     by aya kisaragi