挨拶はノギス! |
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「ノギス!」 「え、あ…ノギス?」 可愛らしいテディベアーが片手を挙げてオイーッスの要領で挨拶らしき事をしてきた。 思わず答えてから自分が過ちを犯した事に気付いた。 「ノギスぅー。」 「ちょっ…わわっ…。」 可愛らしいテディベアーに囲れる。 ただ、そのテディベアーは普通ではなかった。 大体、テディベアーは喋らないし。そこからしておかしいな。 この愛くるしいけど、不思議な生物の特徴を述べるとなるとクマとハチが混ざった感じ。 しかし、数分前までは繭に包まれていた。その前はたぶん、芋虫だと思う。 どうしてヌイグルミみたいな生物に囲まれたか考えてみる。 城内かくれんぼをしていて、隠れる場所を探してここに着いた。 そこまでは問題はない。 そして、どこに隠れるか吟味していると、突然床が抜けたのだ。 まぁ、予告して抜ける床もないが。 「で、こうなってるんだよなー。」 「ノギスー。」 柔らかい肉球を人の頬に押し付けながら擦り寄ってくる。 時たまキスまで強請ってくるから油断はできない。 コレまでに何体ものテディベアーに奪われたのだ。 部屋の中央でこの生物たちに囲まれて数時間。一向に誰も来ない。 見付からなさそうと思ったところに来たのだから当たり前だが。 「そろそろ誰か見つけてくれてもイイんじゃない?」 恋人なら、自分の恋人が行きそうな場所とか思い浮かべて来いよ!と理不尽な考えを巡らせる。 そんな考えも肉球をぺたぺたとされているうちにどうでも良くなり、ぎゅっと潰さない程度にその相手を抱き締めた。 抱き心地は最高で、毛並みも柔らかく体温もあるので抱き締めているうちに、眠気が襲ってきた。 数時間こうしているのだから、相手は肉食ではなさそうだが、ココで寝るのは…と思いつつも瞼は重くなっていく。 「ノギスぅー!」 しかし、ぺたぺたと頬を触られたら寝る事も出来ず、抱き締めたままごろごろする。 「ー?」 最初は空耳かと思ったが何度も何度も私の名を呼ぶ声はどうやら恋人らしく。 「コンラッドー!」 と叫び返すと直ぐに自分が開けてしまった床の穴から覗き込んできた。 「ここにいたんですか。」 「いや、不慮の事故でね。」 ノギスと律儀にコンラッドまでにも挨拶する生物の腕を掴み手を振るまねをさせる。 それにコンラッドも笑顔で答えた。 「、それ、天然記念物ですから。クマハチって言うんです。」 大丈夫ですかと尋ねながら彼が言った言葉を頭の中に反復させる。 天然記念物。あれですか。日本で言うとトキとかイリオモテヤマネコと同類ですか。 ノギスとか可愛らしく鳴いて、何にも疑問に思わず人の頬舐めてたり叩いたりするこの天然ぷりが。 って、こんだけ人に懐けばあたりまえだよ!密漁し放題じゃん! 降ろしてもらった梯子を上ると私に続いてクマハチと見たままの名前の生物は上ってこようとしていた。 てか、あんたらは飛べるでしょう! うまく上れずコテンと転がる姿はパンダを思わせて可愛いが、それとこれとは別だ。 「どうやらクマハチ達はの事を親だと思っているみたいですね。じゃぁ、俺は父ですかね。」 「そりゃ、かなりの子持ちになってエンゲル係数とかヤバそうですけど?」 それ以前にクマハチは人間でも魔族でもないだろう。 上る事を諦めたのか、クマハチ達はやっと背中にある翅をはばたかせた。 最初からそうすればイイのに。 「ノギスー。」 あがってきては次々と私に飛び掛るものだから、私はクマハチに埋もれてしまった。 「大丈夫ですか?」 笑いながら助ける彼にも多数のクマハチがくっ付いていた。コンラッドも父と認められたらしい。 おめでとうパパデビュー。でも、それうちの子じゃないから。 こうして大量のクマハチを引き連れて中庭へと向かった。 コンラッドの話だと前にも同じことがあり、有利とヴォルフが親として認められているらしい。 うちらは第二号ですか。 前回もこうやって中庭に出て世界へと旅立たせたそうだ。 「うわークマハチじゃん!」 大量のクマハチをみて興奮するイトコの有利。 聞くと、一番最初に見付かったらしい。 最後の私を見つけるのに参加者全員で探していたとか。 「も母親になったのだな。何かわからないことがあったら先輩のボクに聞け!」 あえて貴方が母親なんですか?とは聞かなかった。 聞いたら聞いたで不毛な押し問答が始まるからだ。 「ノギス!」 一際大きい泣き声が聞こえたなと思い振り返ると、そこには巨大なクマハチがいた。 「久しぶりー!!」 「元気だったか?」 と先輩夫婦は巨大なクマハチを迎え入れた。 相手もその夫婦に気付き、嬉しそうに抱き締める。 図的には遊園地の着ぐるみに抱き締められる子供という感じだ。 「アレは女王クマハチですよ。」 と、今回孵化したベイビーを抱き締めながら教えてくれたコンラッドはかなり慣れていた。 そういえば赤ん坊の有利を抱いたとか言ってたな。 とは言っても… 「女王でけー。」 規格外の大きさな彼女は私達を見つけると、先輩夫婦の抱擁を離し、こっちへ向かってきた。 ただし、歩いてではなく飛んで。 「ノギスー!」 「あ、どうもノギス。」 同じポーズを取りながら微笑むとうじゃうじゃとくっ付いていた子クマハチ達が女王の元へと飛んで行った。 なんだか少し寂しい気持ちになる。 「コレがあの噂の親離れって瞬間なのね…。」 「というか寧ろ巣立ちですね。」 コンラッドが言い終わらないうちに女王クマハチは熱い抱擁を与えてくれた。 子クマハチよりもフワフワま上等毛並み。 いつまでも包まれていたかったが、どうやら旅立ちの時間らしく、名残惜しげに離れた。 正確に言うといつまでもしがみついていた私をコンラッドがはがした。 「元気でね!母さん、いつでも待ってるから!」 精一杯手を振りながら叫んだ。 「が母さんならオレは父さんですか?この年でこんなに子供を持つとは…。」 くすくすと笑いあいながら姿が見えなくなるまで手を振り続けた。 振っていない片手はコンラッドと繋ぎながら。 「今度はクマハチじゃなくてオレたちの子供が欲しいですね。」 部屋に戻るなり落とされた爆弾発言に思わず淹れてもらったばかりの紅茶を吹きそうになった。 落とした本人はにこにこと嫌になるほど清々しい笑みを浮かべたまま。 「気が早いだろう!まだいらないよ!!私はもいちょっと独身ライフを貫きたい。」 頬が熱くなるのを感じながら必死に反論すると正面に座っていたはずのコンラッドに後ろから抱き締められた。 肩口に顎を乗せる体勢は最近になって気付いた、彼なりの甘え方。 あまり甘えてこない彼を突っぱねるわけにもいかず、いつものパターンに陥っていった。 「今すぐじゃなくたって良いんです。いつか。いつかみたいな可愛らしい子が欲しい。」 「私は寧ろコンラッドみたいな美少年が欲しい。」 耳に吹き込まれる声と吐息を感じながら必死に乱れる鼓動を抑えつつ想像を膨らました。 前に見せてもらった幼い頃のコンラッドに重ねながら。 「それなら双子でも良いですね。似の可愛い女の子と。」 「コンラッド似の美少年。」 遠い先の未来を勝手に描きながら空が暗くなりそして白けるまで話し込んだ。 それから数ヶ月間、城内では「ノギス!」と挨拶するのがブームとなったのを、 すぐさまスタツアをしてしまったと有利は知る由も無かった。 そしてグウェンが珍しく原型がかるアミグルミ…クマハチを二体作り上げたのを知るのは極小数のみ。 ![]() アンケートに答えて下さいました方々、ありがとうございました。 本当はパスせいにしたかったのですが、気付いたら沢山の方々が答えてくださっていたので今回は保留という事で。 次回はパス制にでもしたいですね。 最後の最後にセクハラ的なコンラッドさん…。 もちろんコンラッドとの絡みを忘れてたわけではありませんよ(汗) フリー配布です。掲載する際にはどこにでも良いのでサイトへのリンクと著者名を入れて下さい。 by aya kisaragi |