Division -前編- |
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「ユーリ」 誰かが俺の名前を呼んだ。 漆黒の闇の中、一部だけ鈍い光を放っている。 良く目を凝らしてみると、そこには見知らぬヤツがいた。 目が合うとそいつは嬉しそうに微笑んできた。 次第に意識が遠のいていく。 そして、また漆黒の闇に飲まれていった。 「ユーリっ!」 自分の名前を呼ぶ声の大きさにビックリして目を覚ました。 まぁ、肩を大きく揺すられてたら起きないわけも無いが。 「ん…コンラッドぉ?」 目を擦りながら上半身を起こすと、そこにはコンラッドだけではなく、いつものメンバーが揃っていた。 俺の寝室にこんなに人が集まることではないので驚いてしまう。 と、同時に後ろから体重がかかった。 最初はグレタかなとか思っていたけれど、よく考えればグレタは今、ヒスクライフさんの所にいるはず。 大体、グレタはこんなに重くは無い。 恐くて振り返れない俺はコンラッドの顔色を伺う。 しかし、俺は見なければ良かったと後悔する。 とても複雑な顔をしていたが、目は笑っていなかった。 要するにあまり良い状態じゃない。 「コン…ラッド?」 「おはようございます、ユーリ。」 目を合わせてニコリと微笑む。 皆がいるため、朝の挨拶のキスはなし。てか、されたら大変なことになるし。 そして俺から視線を外し、重みの正体に目を向ける。 「おはようございます、陛下。」 陛下…?それって、俺の事じゃないのか? 意を決して振り向く。 そこには俺がいた。 「うむ。おはよう、ウェラー卿。」 俺と同じ声がコンラッドを呼ぶ。 挑発的な笑みを送り俺を抱き締める。自分が自分に抱き締められるなんて思ってもみなかった。 「そして、ユーリ。」 ちゅっと音を立ててキスをした。 いつもコンラッドがしてくれるように。 驚いてもう一人の自分を突き飛ばしコンラッドの元へ逃げる。 ギュンターが鼻血を噴出させて倒れているのなんかこの際お構いなし。 コンラッドの服の裾を掴みながら先程まで自分がいた場所に目をやる。 「そう、警戒するでないユーリ。」 「アンタ、誰だよ。」 細心の注意を払って問う。こんなにドキドキしたのは久しぶりだ。 「余は第27眞魔国魔王。ユーリ、もう一人のお前だ。」 俺より少し髪の長いそいつは俺に残酷な程綺麗な笑顔で言い放った。 まったくもって異様な光景である。 いつも食事をする席で、目の前には、もう一人の俺がいる。 そして、こうなった経緯を聞いている。 事の始まりは些細な事だったらしい。 アニシナさんの冒険心。 人には表の顔と裏の顔って言うものが確実にある。 そしてその顔は心の中でくっきりと分かれているらしい。 アニシナさんはそこに目をつけた。 くっきりと分かれているならば、二つに表すことが出来るのではないか。 そこで、「素敵に不思議!分裂君」を製作。 グウェンに飲ませようとしていたのだが、手違いで俺が飲んでしまった。 慌てて止めたが後の祭り。 ランニング後で喉が渇いていた俺は、一気に飲み干し、そのままバタリと倒れたと思ったら分裂。 良く見てみたら、俺と上様モードの俺。 きっちり分裂。実験は大成功! ……十分些細じゃないだろう。 「じゃぁ、コイツは魔力が使えるのか?」 「そうですね。」 隣に座ったコンラッドが答える。 って事は、俺よりコイツのほうが魔王っぽいじゃん。 うわー俺、面目丸潰れ。 「案ずるなユーリ。余はお主と二人で一つだ。」 「はぁ…。」 物凄く時代劇調な喋り方。 まるでお殿様みたいだ。嫌いじゃないけど、自分がこんな喋り方ってのは恥ずかしい。 「ユーリは知らないだろうが、余はずっとお主を見てきた。」 俺の中でずっと。 握り締めていた拳の上からコンラッドが優しく包み込んでくれる。 「大丈夫。ユーリはユーリだから。」 俺にしか聞こえない小さな声で囁かれた。 俺を安心させる声。手放せない安定剤。 「落ち着いて、深呼吸。」 背中を擦られながら大きく息を吸い込む。 「そこでだ、ユーリ。」 カタと音を立てて立ち上がった上様こともう一人の俺は、俺の手を握る。 「余と一つになって欲しい。」 深呼吸の途中だった俺は思わず咽た。 「一つって……。」 「案ずるな、ユーリ。そなたは我に全てを預ければ良い。」 預けるって…だんだん先が読めてきたぞ。 「すぐに快楽に導いて…。」 「俺は絶対にイヤだぁぁっっ!!!」 男、渋谷有利。まさか、もう一人の俺に求められるなんて思いはしませんでした。 ダメです。無理です。絶対に嫌。 「ユーリっ!!」 コンラッド達が呼ぶ声に後ろ髪を引かれながらも俺は、その場から逃げ去った。 一度も振り向く事無く。 ![]() やってみたかった分裂ネタ。 しかし、いざ書くと上様の言葉遣いが解からない。 上様はある意味天然なお方だと思う(笑) コンユというよりは、上ユになってしまった;; 掲載 06.3/31 訂正: すみません、上様の一人称は「我」ではなく「余」でした;; 訂正 06.4/6 by aya kisaragi |