子猫の慈しみ方

なんだかむず痒くて目を覚ましてみると、目の前には漆黒の尻尾がユラユラ揺れていた。
思わず握ると、ビックリした声が聞こえてきて、初めて自分が掴んでいるのがユーリの尻尾だと気づいた。
まだ、頭がぼーっとするのは、夜更かししたせいだなと頭の片隅で思いつつ、ユーリ本体を探す。
「おはよう、コンラッド。まだ、寝ぼけてるの?」
可愛らしい笑顔でオレを見上げるユーリ。
「おはようございます。」
ユーリを抱きしめて首筋に顔を埋めると、ふわりとユーリの香がした。
恥ずかしいのか、腕をたたく尻尾が内緒だが、心地よい。
「もー…。」
オレを剥がすのを諦めたのか体の力を抜いて、なすがままになる。
そういえば、何をしていたのかと、こっそり見てみると、一生懸命本を読んでいた。
本と言っても、子供向けの本…絵本を読んでいる。
普通の大きさの時から文字の勉強のために始めているが、この姿でそれをすると、とても可愛い。
オレの色目がなくても、可愛いだろう。
「今日は何を読んでるんですか?」
体を離して、膝の上に乗せ後ろから抱きしめる。
子供扱いされているようでイヤだと前に言っていたわりには、いつも嬉しそうに座っている。
こういう所が可愛いといつか猊下に話したところ、「ツンデレ」というと教わった。
にやにや何か企むように笑っていたのが、少し気にかかるが触らぬ神になんとやら、という事で見なかった事にしたのを思い出した。
「悪い魔女?…ま、とにかく悪い奴に主人公が姿を変えられるんだ。
で、その呪いを王子様?に解いてもらうっていう、よくあるファンタジーだよ。
てかさ、なんで主人公が男で、助けるのも王子様なのさ?おかしいだろ!普通は主人公が女でさー…。」
ブツブツと文句をいいながらも、一生懸命読んでいる。
確かにユーリには特殊な才能はないかもしれないが、「努力」という素晴らしい才能を持っているとオレは思う。
それはとても強い輝きを放っていて、オレ達を照らしている。
だから、今この国が明るいのだと思っている。
ユーリに話したら、きっと顔を朱色に染めるんだろうなと想像しながら。
「元の姿か…。」
ポツリともらしたユーリの言葉。
すっかり馴染んでいるが、ユーリはある事情でこうなってしまったのだ。
この姿では外に出るのは危ないからと部屋に篭りっぱなしの生活に飽きてユーリの性格上仕方ない。
それに、このままでは公務が滞ったままだ。
言葉が悪いが、王などただの飾りにしか過ぎず、実権はグウェンダルが持っている事になる。
そんな事ユーリが望むわけはない。
元の姿に戻りたいに決まっている。
何故、失念していたのだろう。ユーリの傍に居ながら理解してやれてなかった事に後悔する。
時がくれば、元に戻ると思って生活してきたが、それではダメなのだ。
いつ元に戻れるのか解らないなんて不安な思いをさせ続けるのは、臣下として、恋人として名が廃る。
なんとしてでも、ユーリを一刻も早く元の姿に戻さなくては。
もちろん、オレ一人でできる問題ではないかもしれない。
けれど、解決方法を人に任せ、自分はユーリのお守りなどで良いはずがない。
可愛いユーリとの生活ですっかり自分の精神が弛んでいた。
気付いたからには何か手を打たなくては。
「コンラッド?」
黙りこくっていたオレを不審がって見上げる愛しい人。
「オレが元の姿に戻す方法を見つけます。」
誓約の言葉を述べて、抱きしめる。
ビックリした顔を浮かべた後、小さな声で「お願いします」と呟いたユーリ。
誰でなくオレが助けなくては、大切な人を。
何故ならオレがユーリの王子だから。





ものすごく久しぶりで、文体が安定してませんね;;
もうちょっとテンポ良く書きたいです。
今回で、やっとコンラッドが自分がすべき事に気付きましたね。
遅すぎだろ!とか、気付かなかったくせに、いきなりオレ様キャラかよ!って話ですがそこはご容赦を(笑)
そろそろ終わりへと向かうのでお付き合いのほどよろしくお願い致します。

                     by aya kisaragi