子猫のお仕置きの仕方

太陽が空高く輝く時間。
オレは城がある方向を眺めていた。
何故眺めていたのかというと、城にいないからだ。
当然、オレの隣にはユーリがいない。
その理由はオレが仕事をしているからだ。
「そんな顔してないで、さっさと仕事を済ませちゃいましょうよぉ、隊長っ。」
パチコーン☆とウインクしてくるのは毎度おなじみ腐れ縁のグリエ・ヨザック。
そんな今回の仕事の相方の調子に溜息を付きつつ、ついついユーリのことを考える。
あの、可愛らしく小刻みに震える耳とか。
あの、感情を自分の意思に関係なく表に出してしまうフワフワな尻尾とか。
想像してるだけで笑みが零れてしまう。
そして溜息。
「これじゃぁ、坊ちゃんにお仕置きってよりは、お預けをくらってますよ。」
やってられないという声色でグサリと図星を突く発言。
その内容は今は地雷だろうと心の中でツッコミ、思いっきり睨み付けた。
さすがにヤバイと思ったのかヨザックはそそくさと退散していった。
「ユーリ…。」
無意識に漏れる溜息と名前。
頭を抱えつつ、今夜泊まる宿へと歩を進めた。
ユーリと離て眠る久々の夜。


っていうのは、やはり落ち着かない。
ゴロリ、ゴロリと寝返りを繰り返すが、眠気は微塵の欠片も無い。
ヨザックとは別室なので話す相手もいない。
ヨザックと別室なのは、今回ヨザックは女装しているからだ。
物音一つない静かな部屋にノックの音が響き渡った。
「どうぞ。」
こんな時間に尋ねてくるのは一人しか居ない。
城下町に居るならユーリの可能性もわずかながらあるかもしれないが、
残念ながら今、オレたちがいるのは城から離れた場所なのだ。
ユーリがいるはずもなく、やはり入ってきたのはヨザックだった。
「はーい、隊長。こんばんはー。」
鼻歌交じり、酒混じりの調子で訪れたヨザック。
その手には何故か骨飛族の頭蓋骨が。
「それは?」
「閣下からのプレゼントでーす。
どうやら坊ちゃんが寂しくて、恋しくて仕方が無いみたいですよ。
これで隊長も復活してくださいね。こんな腑抜けじゃ仕事になりませんから。」
最後に痛い一言と頭蓋骨を残して去っていった。
半信半疑で頭蓋骨を持ち上げる。
コツコツと爪で頭を叩くと、急にカタカタと震えだした。
「コンラッド…?」
頭蓋骨からユーリの声。
あっちも半信半疑らしくて声が強張っている。
一日ぶりのユーリの声。
じんと体に染み渡り、隅々まで響く。
「ユーリ。」
「コンラッド!」
間をおかずにオレの名前を呼ぶユーリ。
その可愛らしさに思わず笑いが漏れてしまう。
きっとオレの部屋のベッドにちょこんと座って頭蓋骨を小さい手で必死に持って話しかけているのだろう。
前回のお仕置きとはいえ、少し意地悪をしすぎたかもしれない。
というか、オレもそうとう堪えた。
「いつ帰ってくるの…?」
おずおずと聞くユーリを想像するとギュンターではないが鼻血がでそうになった。
想像…いや、妄想とは恐いものだ。
こうなって欲しいという事を脚色されてしまう。
ちなみに今のオレの脳内妄想では、何故だかユーリがオレのシャツを着ている。
もちろん、ズボンなど穿いてはいない。
大きすぎるシャツを着て、第二ボタンまで開けてある状態。
そして、機嫌よさげに揺れる尻尾にチラリとのぞく太腿。
「コンラッド…?」
妄想に耽っていたオレの返事が遅いのに心配したのか、オレを呼ぶユーリ。
そんな事をされるとだ。
「さぁ…ユーリがイイ子になったらですかねぇ?」
と、意地悪したくなるのが男心ってものだ。
「えっ…!?」
思いもよらない答えだったのが絶句するユーリ。
きっと、借りてきた猫みたいに固まっているのだろう。
それで耳と尻尾は立ていて…。
暴走しだした脳内妄想を横に退けて、オレはユーリの発言に注目した。
「俺…イイ子にする!コンラッドの言う事なんでも聞くから!
ね、だから早く帰ってきてよ…。部屋から出れないし、不便だし…。
それに…寂しいだろっ。俺、イイ子にするからさ。文句も言わない。だから帰って来てくれよ…。」
目に涙を溜めているだろうユーリの懇願。
まさにオレの心を射止めた。ストライクゾーンにぴったりですよ。
「何でも聞くんですね?」
「うんっ。」
「文句も言わないんですね?」
「もちろん。男に二言は無いぞっ!」
帰ってきてもらうことに必死なのか、はたまた本当に脳筋族なのか。
とにかく、オレとしては嬉しいばかりの返事を貰った。
「イイ子ですね、ユーリ。」
慈しみを込めた声で呼んでやると、喉を鳴らす音が頭蓋骨から聞こえてきた。
「なら、明日の夕方までには帰りましょう。それまで大人しく待っていてください。」
そう告げると嬉しいのか尻尾がシーツを叩く鈍い音が聞こえた。
心なしか鼻息も荒い。
「ホント!?」
「えぇ、頑張って仕事を終わらせますよ。」
わーいと少し遠くで聞こえた。たぶん、小躍りしているのだろう。
考えると、脳内妄想が暴走しだした。
オレのシャツを着て小躍りするユーリ。
肌蹴るシャツの裾、蒸気した頬。
思わずゴクリと生唾を飲んでしまった。
どこまで欲求不満なんだ、オレは。
まだまだ若いんだなぁと自分に苦笑しつつも明日の予定を組み立てる。
「では、おやすみなさいユーリ。ちゃんと寝てくださいね。」
「OK,OK。今夜はバッチリ眠れそうだよ。じゃぁ、頑張ってな。待ってるから。」
新妻か遠距離恋愛のカップルなみの会話を交わして通信を切った。
サイドボードに頭蓋骨を丁重に置いて寝る体制に入る。
そして気づいた事。
骨飛族を使った通信は、他の骨飛族の頭蓋骨を持っている人にも聞かれてしまうと言う事に。
ということは、最低でも我が兄上と毒女は聞いてしまったのだ。
まぁ、あの二人に聞かれて困る内容ではあるまい。
グウェンダルの眉間の皺が増えるか濃くなるかはするだろうが。
とりあえず、脳内妄想ユーリがオレを潤んだ目で見上げて懇願しているので、考えるのはやめよう。
早く可愛がってあげなくては。
そうそう、明日、どうやってユーリを可愛がってあげるかも考えなくては。
まずは体の隅々までオレを刻み込んで、その後は…。
あれこれ考えていたら、まだまだオレも若いらしい。
今夜はとりあえず右手が恋人ということだ。
明日の夜が楽しみだ。





またもや随分と間が開いてしまいました…;;
しかも、次回予告とは全く異なるものに…。
てか、この小説の路線はこれでイイのでしょうか…?(焦)
全く、このドラ息子小説めっ…「オレは決められた線路の上を走らない!」ってかぁ!?
と、ちょっぴり暴走してみました。
次回は裏にします。宣言します。
って…できなかったらどうしよう(滝汗)
ではでは、また次回にお会いできましたら。
お付き合いありがとうございました。

                     by aya kisaragi