零れ落ちる砂と水 |
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父と母との間に幼い私がいる。手を繋いで楽しそうに笑っていた。 「。」 誰かに名を呼ばれて顔を上げる。その視線の先に誰かを見つけて両親から手を離して駆けて行く。 両親は微笑ましく見守っている。 その誰か…青年に飛びついて抱きしめてもらう。 嬉しそうに笑う私。 ふわりと香る青年の香り。…この匂い知ってる。 青年が笑みを返す。 突然背後で叫び声があがった。 「、逃げてっ!」 母が襲い掛かってきた何かに魔術で応戦しながら叫ぶ。 父がその母を庇いながら剣を振るう。 「……ッ…頼んだぞ!」 青年の名前を父が呼ぶが聞き取れない。 私は青年に抱きかかえられて逃げていく。 大好きな父と母が何かに囲まれて見えなくなる。 「パパっ!ママっ!!」 何が何体か追ってくる。もう、父と母は肉眼では確認できない。 「ココに隠れてて下さい。オレが開けるまで絶対に出ないでください。何があっても。」 青年の気迫に押され、頷く幼い私。 閉ざされる扉。耳を劈く剣の触れ合う金属音。 気合を入れた青年の声。何かの呻き声。 目を開けているのか閉じているのか解からない程の闇に包まれて、このドアが再び開くのを待っていた。 とても長い時間その闇に包まれていた。 恐怖よりも両親と青年の安否を心配した。 気付けばあたりは静まり返っていた。 耳を澄ますと砂利を踏む音が木霊する。そして、闇に終止符を打つかのようにドアが開かれた。 しかし、そこには父や母、待っていた青年ではなく見知らぬ人が居た。 その顔には子供でも解かるほど、悪意に満ちた満面の笑みが浮かんでいた。 そして、その後ろに立っている従者らしき者たちの手には……。 「イヤァァァッ!!」 自分の中の枷が外れ何かが溢れ出す。 「…っ!っ!」 「んぅ…。」 大声で名前を呼ばれ体を揺さぶられるのに耐え切れず目を覚ました。 目をこすり、何度か瞬きをするとぼんやりとではあるが、随分な起こし方をした人の輪郭が見えてきた。 「。」 汗で額や頬などにくっついていた髪を掻き揚げながら顔を覗き込むその人。 「あー…おはよ、コンラッド。」 「おはようございます。大丈夫ですか?魘されてましたが。」 ギーゼラを呼びますか?と汗を拭きながら聞いてくれる。 汗をびっしょりとかいていたらしく、気持ちが悪い。 「大丈夫…。」 ダルイ体に渇を入れて起き上がる。 空にはもう太陽が高い位置で輝いていた。 随分と寝ていたらしい。 有利と違って特に仕事も無い私は、結構ほっておかれることが多い。 そのため今日みたいにコンラッドが起こしに来るまで睡眠を貪っているのだ。 「お風呂に入りますか?」 「そーする…。」 もそもそと布団から抜け出してコンラッドに連れられて行く。 ココに来てもう二ヶ月たったと愛用のデジタル時計が示している。 有利はもう帰った。 眞王様は何を考えているのやら。 「着きましたよ。」 ぼーっと考えている間に着いたらしい。 ココからは男子禁制なのでコンラッドはココまでである。 そりゃそうだ。お風呂まで一緒だったらユデダコどころでは済まない。液体になってしまう。 あーだのうーだの呻きながら風呂場へと向かう。 服は脱ぎ捨てても従者さんが片付けてくれるので楽だ。 一人暮らしだったらこんな事とはない。 「はぁ…極楽極楽。」 お風呂のマナーとして体を流してから湯につかる。 朝というから昼から風呂だなんて贅沢もイイとこだ。 しかし、嫌な夢を見た。 過去の事だったと思う。けれど、私にはそんな記憶がない。 けれど、とても生々しかった。しかも、両親は私のだった。見間違えようが無い。 大好きだった優しい両親。 なのに私を置いて行ってしまった。 それに私にはある一定の期間の記憶が無い。 両親がいなくなった前後の記憶が無いのだ。 私の父の弟の有利の父が言うには、両親の喪失が精神に多大な負担をかけたためだと言う。 交通事故だと聞いていたが、さっきの夢が本当だとしたらそれは嘘だ。 両親はこっちの世界で何かに巻き込まれた。 しかし、見たことも無い相手だった。 真面目にただの悪夢かもしれない。まぁ、調べてみる価値はあるが。 「あら、先客が居たのね。」 考えることをやめてリラックスしているとお客さんがやって来た。 美貌を惜しみなく露にする金髪美女。 「ツェ…ツェリ様!?」 勢い良く立ち上がって、自分の格好を思い出して勢い良くしゃがんだ。 私には露にするような美貌は持ち合わせていない! 「気にしないで。でも、こんな所で姫にお会いするなんて思わなかったわ。」 「姫だなんて!!」 正真正銘女王陛下に姫呼ばわりされる程、私はまったくもって偉くない。 大体、姫だなんて言えるほど綺麗でもない。 まぁ、姫が綺麗じゃなきゃいけないというのは無いのだが。 「陛下のイトコで、私の息子のコンラートの婚約者なら立派な姫だわ。それに私はもう、女王ではないわよ。」 イヤイヤ、美少女仮面の格好は正しく女王ですよ、ツェリ様。 あんな赤いピッチリした素材の格好は…。 それで本を書くなんてどんな内容なんだろう。 「婚約者なんて!違います!手違いなんです!!」 湯船に入ってきたツェリ様にたじろぎながら賢明に否定する。 こういう時は、ちゃんと否定しなくてはいけない。 「アラ、でもコンラッドは承諾したんでしょう?それに付き合っているという噂を聞いたわよ。」 ふふふと乙女の顔をしながらわらう。 確かにお付き合いしだしたけれど、それは結婚前提のお付き合いではなく…。 というか、一人でゆっくりするつもりだったからタオルなんて無粋な物は持ち込んでいないわけで。 まったく無いというわけでは無いけれど、そんな胸が張れるほどあるわけじゃなくて…。 湯気で見えないからまぁイイかなんて思っていたけれど、何だかツェリ様が近付いてきている。 後ろは湯船の淵で逃げ場は無い。 「コンラートはここという場所ではぐらかすからね…。姫の方からもアプローチをしてみては?」 「そうですね。アプローチ。イイですよね、それ。してみます。」 だからこれ以上近寄らないでください。 素敵なボディの輪郭がはっきり見えてきました。ということは私も見えてますよ。 とにかく離れる事を念頭に返事は半分以下で。 「まぁ素敵!これからは女性からも攻める次代だってアニシナが言っていたわよ。 後で姫に私の取って置きの物をプレゼントいたしますわ。きっと気に入ってくれると思うの。」 「ありがとうございます。楽しみにしてますね。」 その前に何かの限界が来てます。もうそろそろ無理です。 あぁ、ツェリ様がユラユラ揺れている。 「姫?」 怪訝そうに整った眉をしかめて見つめてくる。 「だいじょーぶ。」 地震は慌てたら終わりですからね。ここは大きく構えましょう。 地震大国で育って来た私が言うんだから間違いない。 「姫っ!?」 次の瞬間大きな揺れが私を襲い、世界は反転した。 「んっ…。」 目を覚ますと白い天井が出迎えてくれた。 自分の部屋ではない。ならば、ここは何処だ? 「気が付きましたか?」 緑の髪を後ろで纏めたギーゼラが額に乗っていた濡れタオルを変えながら聞いてきた。 鬼軍曹と呼ばれているらしいのだが、どこが鬼なのだろうが?むしろ天使ではないか。 ただ、白衣ではなく軍服なだけ。 「なんでココに?」 「のぼせたんですよ。ツェリ様が叫んでいるのに待機していた従者とコンラート閣下が気付いてココまで連れてきたんです。」 ほぉ、従者さんとコンラッドが…。 え? 「コンラッドが!?」 なんと! 風呂に入っていたのだから、そりゃ当然、無粋なものは持ち込まない派の私としたら、素っ裸なわけで。 そこに助けるためとは言えコンラッドが入ってきたと。 婚約なんか手違いでしましたけど、嫁入り前なのに! ワタワタと顔を赤くしたり青くしたりする私にとうとう笑いを堪えきれなくなったギーゼラが笑い声を立てる。 「大丈夫ですよ。ツェリ様がタオルをかけてくださいました。 それに駆け込もうとしたコンラートを必死に従者たちが押さえましたから。」 しかし、血相を変えたコンラッドを押しとどめるなんて、どんなマッチョなレディーなのかしら。 とっても気になる。 今度グレタと探しに行こう。 「っ!」 そして血相を変えたコンラッドが飛び込んできた。 文字通り飛び込んできたのだ。 ドアを勢い良く開いた反動でつんのめったのだ。コンラッドにしては珍しい。 「!」 そしてその後ろから有利も飛び込んできたのだ。 ヴォルフラムに追っかけられながら。 そうすると当然ヴォルフも飛び込んでくる。 ドンっと重々しい音を立てた。 こけてしまうシーンを見るのは忍びなく目を伏せた。 「、大丈夫ですか?」 と、こけたと思ったコンラッドは何事も無かったかのように振舞いながらベッドの横に膝をつき私の状態を確認する。 そして、恐々と見てみると、有利とヴォルフがドリフのコントのようにこけていた。 「あ、うん。大丈夫。のぼせただけだから。」 額のタオルを外して起き上がる。 コンラッドは慣れた手つきで腰に枕を入れてくれた。 さすが生きた紳士。まぁ、生きているから紳士なんだけど。 「ビックリしましたよ、倒れたって聞いて。心臓が止まるかと思いました。」 「それはビビリ過ぎだって。」 苦笑しながら乱れた髪を直す。そういえば髪の毛洗うの忘れた。 「心配ですよ。に何かあったらオレは…。」 「大丈夫だって。ここは安全なんでしょ?コンラッドだってグウェンだって、ヴォルフだって居るんだし。」 満面の笑みを浮かべる。 貴方が守ってくれるのでしょう?と挑発的な意味を込めながら。 カツンカツンと切れのいい音が響く。 なんぞやと思い見てみるとギーゼラがコントこけした二人に近付いていた。 ヴォルフの美しい顔に青筋が立ったように見えた。 「気を付けぇっ!!」 突然静寂を破る野太い声。出元はあのギーゼラかららしい。 ヴォルフラムが慌てて立ち上がる。 「……へ?」 思わぬ事態に私も有利も驚愕だ。 コンラッドは忍び笑いを立てている。 「この怠惰はどういう事ですが閣下!」 「いや、その…。」 珍しくヴォルフが焦っている。 「言い訳無用!今すぐその腐った根性を叩きなおして来い!」 「はいぃっ!」 どうしてだか荷物を持ってきたダカスコスも荷物を置いて駆けていった。 いったい何処へ駆けていったのやら。これもグレタと捜索しなくては。 「あら、ヤダ失礼。陛下大丈夫ですか?姫も具合はもうよろしいんですか?」 「いえ、大丈夫です。」 思わず背筋をシャキリとして返答。すぐさま退散。 今、初めて彼女が鬼軍曹と言われる理由がわかりました。 そして、私の洋服がいつも着ないような服だったのに部屋に戻ってから気付き、コンラッドに八つ当たり。 どうやらツェリ様お見立ての洋服だったとか。 それから数日間何故だか色々な物が贈られた。 何故、贈られるのかまったく身に覚えがないのでコレもグレタとの探検で確認しよう。 ![]() やっとこ更新。 冒頭から暗いですが中身はギャグチック。 確信にせまる過去話しでした。 しかし、あまり文才がないのでシリアスが表現できませんでした;; あ、今回ギーゼラを出したらヨザックが出てこなかった!!!(イヤ、コンラッド夢だから) by aya kisaragi |